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疑惑3
翌日、翔也は冷蔵庫の前でつっ立ったまま、牛乳をパックごと飲んでいた。
「おい、コップに移し替えて飲めよ」
後ろから声をかけられる。
「どうせ全部飲むから。兄さん飲むなら新しいの開けなよ」
「成長期を過ぎたお兄様は牛乳以外にするよ」
涼が軽く返事をしながら翔也の横で冷蔵庫を開ける。
涼が冷蔵庫を覗き込むのを見ながら、翔也は昨日、涼が武範と二人で車に乗り込んだ場面を思い返していた。
涼はスポーツドリンクのペットボトルを手に取り、振り返る。
翔也と目線が合い、ふっと笑った。
「お前、ほんと成長期だよなぁ。でかくなって、俺と変わんない?いや、もしかして抜かされてる?」
涼が手を伸ばし、翔也の頭と自分と交互に手を置き背の高さを確かめる。
「え?お前の方が高いかも。うわーちょっとショック」
翔也は涼を真っ直ぐに見つめた。
「兄さん」
「何?」
「昨日どこ行ってたの?」
「何処って?仕事だったけど」
「夜遅かっただろ」
「だから仕事で遅くなるって、母さんには連絡したよ」
「夕方、父さんと車に乗ってたよね」
「…」
スポーツドリンクのペットボトルを口にしていた涼の動きが止まる。
「…どこで見た?」
「地下鉄のF駅の入り口で」
「昨日は…」
「昨日は?」
「今度の雑誌にビジネスマンの特集があって、義父 さんのコネでインタビュー出来る人を紹介してもらってた」
「そんな話しだったら家でもいいじゃん」
「仕事の話しなんか家でしたくないよ」
「乗ってたあの車は?見たことないけど」
「義父さんが小回りきくのを買ったんだろ。運転手付きのクラウンじゃない方が良い時もあるんじゃないの」
「でも、だったら家に置いたらいいのに。うちの敷地はまだ余裕あるんだし」
涼が微苦笑した。
「母さんに知られたくないことに使ってる車かも」
「何それ、父さんが浮気してるってこと?」
「カッコいい上に金も持ってるんだから、クラブのお姉さんとか、遊ぶ相手くらいいるんじゃないか?新婚夫婦でもないし、その辺寛容でいいと思うけどね」
「意外…」
翔也が驚いた顔を見せる。
「何が意外?」
「兄さんが父さんをカッコいいって言うなんて。正直…あまり好きじゃないと思ってた。だから昨日一緒でびっくりして」
長袖で手首まで覆っている自分の腕をチラと見て、涼が話す。
「客観的に見てカッコイイ人だと思うよ。好きじゃないけど」
「やっぱり、好きじゃないんだ」
「うん、ごめん」
自分の部屋に戻る涼の背中を見る。
自分の父親を好きじゃないとはっきり言われた言葉にやはり傷つく。その父親と血の繋がっている俺の事は?優しく接してくれているけど、ほんとうはうざく思っている?
…ていうか、兄貴に対してこんなにメソメソ考えることがマジでうざいじゃん。
「終わってんな、俺…」
翔也はため息をついた。
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