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疑惑4
自分の部屋から涼は武範に電話をかけた。心底嫌だが、伝えておかなければならない。
「お前からかかってくるとは思わなかったな」
「かけたくてかけたんじゃない」
「あはは、相変わらずベッド以外は素っ気ない」
悪趣味な言葉に涼は苛つく。
「聞けよ。翔也に二人で車に乗っているところを見られた」
「ホテルに入るところじゃなければ、何とでも言えるだろう」
「雑誌の特集で、インタビューに応じてくれるビジネスマンを紹介してもらう話しにしてある。合わせといて。車のことは義父 さんが遊び用に買ったのかもって、まあ真実を言ったけど 」
「お前から電話かかってきて、声をそんなに聞けるなら、たまにはバレそうになってもいいな」
涼は武範の軽口に苛立ち電話を切った。
「何が声聞けるだよ。息子にバレそうになってるのに…」
直ぐに電話がかかってきて、一瞬武範かと思ったが、液晶画面を見て電話に出る。
「もしもし佐藤?」
大学時代のサークル仲間の佐藤は、糺を除けば、一番仲良い友達だ。
「おー涼、久しぶり」
「うん、久しぶり」
「お互い、会社員になると中々時間取れないな」
「ほんと」
「つっても涼以外とは結構会ってる。お前は毎回断るから」
「ごめん」
「この前は糺と飲んでさ」
涼は心臓がひくつくのを自覚する。
「あいつもいつも断るけど、この前は強引に誘ったら来て。本当なのか?」
「何が?」
「俺は涼に嫌われてるって言って、すげー悪酔いしてたぞ」
「…それは…」
涼は一層心臓が締め付けられる。
佐藤が続ける。
「俺はお前らが二人で会ってて、それで俺らの誘いには来ないのかなって思ってた。そしたらもう1年以上も口を聞いてないって、ほんと?」
「うん…」
「どうしたんだよ。女子の中じゃ付き合ってる説まで出てた仲良かったお前らなのに。俺で良かったら相談に乗るけど」
「それは…」
言えない。もし佐藤と二人で会って相談でもしたら、あの偏執的な義父は、佐藤まで警戒の対象にする。自分に近づく者は徹底的に排除すると、涼は経験で分かっている。
「佐藤…糺、どうだった?あの、俺の話しとは別に、仕事大変とか、何か困った様子とか、体はどう?元気そうだったかな?」
「仕事は問題なさそうだったよ。元気はなかったけど、それは身体じゃなくてお前のせいだよ、多分な。そんなに気にするなら直接、糺に会えよ」
「今は無理だけど、ありがとう、糺の事教えてくれて」
良かった、仕事は問題なさそうで。
涼は糺の近況を聞き、今もまだ自分との別れを引きずっていることに、申し訳無さと微かな喜びを感じる。
自分を忘れて幸せになって欲しいと思うのに、完全には未練を断ち切れない。
会いたい、会いたい、会いたい。
枕に顔を押し付けて呟く。
「糺…」
嫌いになって別れたわけじゃない。募るばかりの想いは、身を切られるような辛さをもたらす。
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