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抑えきれぬ劣情5
涼に呼ばれ、翔也は素直に横に並んで座った。
「俺のこと3年前から好きって、随分具体的なんだな」
「あの映画観た時からからだよ。学祭で上映した、兄さんが美女役で出てる吸血鬼映画」
「ああ…あれ…でもあれ女装だからじゃないの?男の俺が好きなんじゃなくて」
「自分もそう思おうと努力した時もあるけど、やっぱり違う。女装なんて一回観ただけじゃん。普段の兄さんと長く一緒にいるのに、好きになるばかりで…」
「そうか」
ああ、可愛いなと涼は思う。
好きな気持ちを隠す辛さは自分が一番よくわかっている。
しかも翔也にすれば好きな相手は目の前に毎日いるのに、隠さなければならなかったのだ。
しんどかっただろうと思う。
受験のプレッシャーもあって、抑制する気持ちは限界だったのだろう。
翔也に対し、恋愛感情はない。でも弟としてほんとうに大切に思っている。
自分の身体はどうせ義父の玩具なのだ。お高くとまるような価値などない。
翔也の気晴らしになるなら、それもいいかもと涼は思う。
「兄さん、気持ち悪くないの?男に、それも弟に好きなんて言われて」
「お前を気持ち悪くなんて思うわけないだろ。それに…同性に抵抗ないよ。昔、俺が好きになった相手も、男だったし」
翔也が驚いて涼を見る。
「だから、だから彼女いなかったのか。絶対モテまくりのはずなのに、なんでかなって思ってた」
『好きです、付き合ってください』
過去何人かの女の子達に告白され、断ると、皆傷ついた顔を見せる。そのたびに凄く申し訳ない気持ちになった。
『お前が好きだよ。だから離さない』
好きだから独占するのだと、勝手な言い分で人生を奪う男もいる。
「自分が好きな人、その一人だけにモテたらそれでいいのに、上手くいかないよな」
「兄さん、その昔好きになった男の人とは付き合わなかったの?」
「ううん、一度は付き合ったけど、別れた」
「なんで?」
「振られたんだよ」
「嘘だろ。兄さんが振られるなんて」
「俺は今でも好きだけど、付き合えない」
翔也の表情が暗くなる。
「今も好きなの?その男の人のこと」
涼は素直に頷いた。
「好きだよ。もう会えないけど」
翔也が口を固く結び俯く。
涼は傷ついた様子の翔也の横顔を見つめ、そして自分より大きくなった肩に持たれた。
「翔也、恋愛感情とは違うけど、お前が好きだよ。それでもいいなら」
翔也が涼を見つめる。
「何言ってるの、兄さん」
「好きな男がいるって聞いて、その気なくなった?」
涼の言葉に、翔也はぶるぶると首を振る。
「正直言うと複雑。他に好きな人がいるのはショックだけど、兄さんが同性にこだわらないなら、俺にもチャンスがあると思う」
涼が微笑んだ。
「ほんと可愛いな、お前」
そう言うと、涼は隅に置いていた鞄からローションを取り出した。
「それ…」
戸惑いを見せた翔也に涼は言う。
「男と付き合ったことがあるって言っただろ。持ってるよ、こんなモノも。あーでも、ゴムは無いな」
翔也がばっと立ち上がる。
「お、俺の部屋にある!持ってくる!」
駆け出す翔也の背中に声をかける。
「急がないでいい。俺も準備いるから」
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