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崩壊の序章8

興味のないように、涼はオレンジジュースに手を伸ばす。 糺…。 涼は小さく頭を振る。 何も考えない、思うこともない。 自分は人形なのだ。 「長山糺(ながやたただし)と言ったな。ホテルの出入り業者なんてそれこそ食材やら、リネン類やら、数えきれぬほどいるからそれぞれの担当部署に任せている。ただ事前の提出書類であいつの名前を見つけたから、会計監査システムのプレゼンには俺も出たんだ。社長である俺が出ることに我が社のシステム担当も驚いていたけど。長山は俺の前でも堂々として素晴らしいプレゼンだったよ。お前が惚れるのもわかる」 涼はオレンジジュースのコップを静かにテーブルに置いた。 「何年前の話し…。俺はもう糺のことなんか何とも思ってない」 武範は椅子から立ち上がって涼の近くに行く。微笑みながらコップを掴んだままの涼の手に自分の手を添えた。 「だったら何故、お前は俺の元から逃げない?あいつの生活が脅かされるのを阻止するために俺に従っているんだろう?」 「母さんはあんたに惚れてる。母さんを大事にして欲しいだけだ」 武範は涼の手の甲に口づけた。 「ああ…そうだったな。俺には由美というコマもあるな。由美は可愛いし、俺も大事にしたい。お前がこのまま従順でいてくれれば、由美にはほんとうに楽しい船旅になるよ」 武範はその甲に口づけた涼の手を取り、ベッドに連れて行く。ベッドサイドに置いてある道具の中から麻紐を取り出し、バスローブを取り払われ全裸になった涼の両手首を縛る。 そうして涼はベッドに俯せに寝かされ、手首同士を繋がれた両手は真っ直ぐ上に伸ばされた。 「あうっ…」 既に何度も打ち据えられ、鞭の痕がある背中にまた鞭が落とされる。そこから臀部、大腿、下腿、果ては足の裏まで一本鞭が造る赤い線が刻まれる。 涼をいたぶることで欲情した武範にそのまま後ろから貫かれる。 「うっ…」 涙は生理的なもの。 自分は人形で、何を聞かされても身体を虐め抜かれても、何も考えない、思わない。 涼は呪文のように自分は人形なのだと脳内で繰り返す。 時間の感覚もないままサディスティックに凌辱され、セックスを強要された二日間が過ぎた。 ようやく日曜日となり、解放される時となる。 「これでしばらくお前とも日本ともお別れだ」 衣服を着て、部屋から出て行く準備が出来たところで武範が涼に近づく。 「涼、翔也を頼むな」 涼をいたぶり尽くしたサディストの顔から、我が子を心配する父親の顔になった武範に涼は冷ややかな言葉を返す。 「二十歳にもなった大学生は、親が2か月くらい居なくても大丈夫だろ」 「まあそうだな」 武範が苦笑する。 会計に向かう武範を待たず、涼はホテルから呼んだタクシーに乗り込んだ。 「くっ…」 タクシーのシートに身を沈めるのさえ皮膚が擦れて痛みを思い知らされる。外から見えない部分は全身、足の裏さえ鞭で打たれてミミズ腫れとなっていた。 玩具や武範の杭で散々に貫かれた秘部は車の振動さえもが衝撃となる。 「う…」 涼は唇を噛み締め、家までの時間を耐えた。

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