35 / 39

破砕する心2

「疲れた…」 傷ついた身体で、考えごとをすると余計に疲れる。涼はふーっと息を吐き、もう何も考えるまいとソファの背に頭を乗せた。 ふとポケットの中の振動に気づく。 「あ、佐藤」 スマホの画面に相手の名前が出ている。 佐藤は大学時代の糺と涼の共通の友人。二人が付き合っていたことは知らないが、現在、仲違いをしていることは知っていて気にかけてくれている。 「もしもし、佐藤?」 「涼!元気か?」 二日間に渡る武範とのセックスに疲れ切っているが、涼は誤魔化し返事する。 「特に変わりないよ。お前は元気そうだな」 「まあな。で、今日電話したのはさ」 「うん?」 「糺のことなんだ」 「ああ…」 佐藤は涼が一方的に何かしらの理由で糺に怒り、距離を置いていると思っている。糺が『俺は涼に嫌われている』と佐藤に言っているから。 実際涼が避けているのだから、そう思われるのは当然だった。 「お前まだ糺に怒っているのか?」 「いや怒ってるとかじゃないけど…」 「何があったか知らないけど、もう許してやれよ」 「糺が悪いわけじゃなくて…」 「だったら尚更。こんな機会は一度きりだから俺はお前にも出てもらいたい」 「出るって?」 「糺が結婚するから、その披露パーティーだよ」 「…え?」 涼は一瞬何を言われたのか理解出来なかった。 「結婚…?」 「うん、お前は距離置いてるから知らなかったろうし、実際まだ具体的な日取りも未定なんだけど、この1年以内を目処に結婚するつもりらしい。親と親戚だけで結婚式と簡単な食事会して、友達は別にパーティー開くってタイプを考えてるんだとさ。最近は面倒な会社関係を抜きにしてそういう形式にするのも多いよな。で俺にその友人・知人だけのパーティーの幹事兼司会をしてくれないかって打診があってさ」 「糺が結婚…」 「彼女からせがまれたみたいだけどな。一つ年上らしい。写真見たけど、綺麗な人だったよ。俺はその友達だけのパーティーの幹事と司会の話しは引き受けようと思ってて」 すーっと身体から血の気が引く。 「で、出来ればお前と一緒にやりたいって思って。糺は絶対涼は司会どころか参加もしてくれないって言ってたけど…実際どうなんだ?」 佐藤の言葉がまるで知らない言語のように上滑りしていく。 「涼?聞いてる?」 「ああ…うん…聞いてる」 佐藤はまだ何かしら話していたが、涼は無意識に返事をしていた。 急な話しでびっくりしたとか、やっぱり幹事や司会は無理だとか、それなりに言葉を返していた記憶はあるが、意識はあやふやな状態でいつのまにか電話は終わっていた。 糺が結婚? 糺が女性と…。 ソファに座ったまま放心する。 糺に幸せになって欲しいと思っていた。 糺が傷つけられる事が無いように、自ら別れ武範にこの身を提供し従ってきた。 糺を愛しているから。

ともだちにシェアしよう!