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破砕する心4

明日の出航に備え横浜のホテルにタクシーで出発する母の由美とお手伝いの真紀さんを見送り、翔也は自分の部屋で過ごしていた。 階下からゴトッというような物音が聞こえて、涼が帰ってきたのかもしれないと部屋を出る。 リビングに行くと涼が冷蔵庫の前あたりの床に倒れていた。 「えっ!?兄さん!?」 慌てて駆け寄る。 「兄さん!大丈夫?」 涼は泣いていた。 「兄さん?どうした?どこか具合が悪いの?起きれる?」 翔也は床に膝をつき、涼を抱えようとした。 涼は翔也の手をパシッと払う。 「え…兄さん…?大丈夫?」 涼は自力で起き上がり座り込む。 「大丈夫じゃない」 「え…」 「大丈夫なわけがない。誰のせいで…こんなことに…」 「に、兄さん?こんなことって?」 涼は服のボタンに手をかけ外し始める。 「どうしたんだよ?」 翔也はわけがわからない。リビングの床に倒れ込んでいた涼は涙を流しており、起こそうとすると翔也に怒っている様子で今度は服を脱ぎ出した。 上着を脱ぐとシャツも裾に手をかけ一気に取り払う。 「えっ…」 目を疑うとはこういうことかと、翔也は思う。 上半身裸となった涼の身体には、みみず腫れに膨れた赤い線が縦横に刻まれ、合間にはキスマークと言われる鬱血痕がいくつも散らばる。腕や手首、そして首元にも縛られた後につく輪状の痕があった。 ただのセックスの痕ではない。激しいSM行為。 「兄さん?な、なんだよこれは…」 涼は翔也を見つめる。 「義父(とう)さんだよ。義父さんはこうして俺を痛めつけて楽しんでる」 「えっえっ…何?どういうこと…父さんが兄さんにこんな事してる?そんな、まさかそんな…」 涼は一度息を吐くと、今度は壊れたようにまくし立てた。 「10年前から!結婚が決まって母さんは仕事も辞めてアパートの契約も解除して、お前とも仲良くなった後に言われた。俺がいうことを聞けば予定通り結婚して母さんを幸せにする、逆らえば結婚は破棄するって」 翔也は驚きのあまりただ呆然と涼を見つめる。 「高校生の俺に何が出来た?従うしかない!お前の父親は約束を守ってくれたよ。そうだよ!母さんのことは今も大事にしてくれてる。俺を縛って鞭で打ち付けてセックスの相手をさせて!」 出会った時すでに高校生だった涼は、翔也に対しても誰に対しても、いつも優しく穏やかで感情を剥き出しにしたことなど一度もなかった。 翔也が好きだとその身体を押さえつけた時でさえ、優しく冷静に『無理やりは相手を傷つける』と諭し、結局翔也を受け入れてくれた。 その涼が、泣きながら激しい言葉でまくし立てている。

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