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Ⅰ.幼馴染の夢物語

「……っていうのが、(サク)が10年近くずーっと大事に大事にしてる、おとぎ話の概要っすわ」 「へー! (ミヤビ)って案外ロマンチストなんだなぁ」 「テメェ、達希(タツキ)! 勝手な事言ってんじゃねぇよ!!」  あのロマンチストで可愛い咲はどこへやら。  教室の椅子に足を組んで座る、幼馴染の雅 咲をぼんやり見つめながら、オレは大げさに嘆いてみた。  ……痛い。  どうやら、咲を怒らせたみたいで、ペンケースが飛んできた。見事、頭にヒット。オレの頭でバウンドしたペンケースが、前の椅子にぽとっと落ちた。 「でも、ロマンチストって言われても、仕方ないと思うっすよ? だって咲、それ以来、一切仮装しなくなったじゃん。幼稚園のお楽しみ会でも、1人だけ“絶対いやー!”なんてごねてさぁ」 「ほっとけ」 「まあ、小学校低学年くらいまでなら、可愛いと思うっすよ? でもさすがに去年も今年もソレじゃ、ロマンチストって言われても当然っす。むしろ、頭の弱い子?」 「そういうセリフはオレに1度でも1教科だけでも勝ってから言えば? もうテスト前に助けてやらないけど」 「ごめんって! ウソウソ!! 確かにロマンチストとは思うけど、頭弱いは訂正するっすー!!」  思いきり顔を逸らしてしまった咲に、オレは必死で謝罪。自力でそれなりの点数は取れるんだけど、上位キープ朝飯前の咲に教えてもらえないのはツライ。  髪を染めたり、制服を崩したり、突然授業中に消えたり。  そーいうのに目を瞑ってもらうためには、「ある程度以上」の成績をキープしなきゃなんすよねぇ。 「ただ、話戻して悪いけど、ほんと、意外ではあるよなぁ。雅ってもっとこう、ドライなタイプだと思ってた。ハロウィン仮装パーティーにしても、「くだらないからパス」なんて言いそうな感じ」 「子供の頃についた習慣なんて、そう簡単に変わらねぇだろ」 「それがハロウィンの仮装だけなんだから、やっぱロマンチストっすよー!!」 「なあ、達希。次は何で殴られたいんだ?」 「頭は止めて欲しいっす!」  いっったい!!  リクエスト通り頭は止めてもらえたけど、顔面にノートが思いっきりヒット。ねえ、今、「バッチーン!」とかいったっすよ?  顔を必死でさするオレに、咲はご満悦。ただいま会話中のクラスメイトくんには、可哀想なものを見る目で見られた。 「縁深(エンミ)って実はバカだろ……」 「失礼っすね!? 一応特別待遇が許されるくらいには優秀っすよ!!」 「勉強はな……。で、雅。縁深は置いといて、じゃあお前はハロウィン仮装パーティー、パスの方が良い?」 「ああ。悪ィけど、それで頼むわ」 「いやいやいや、いい加減、夢見るのは止めたらどーっすか? みんなでパーティーしよ? ノリ悪いっすよ、咲!!」 「うるせぇ! ガキの頃から何度も何度も、な・ん・ど・も!! なんでお前はオレに仮装させたがるんだ!!」  咲が自称吸血鬼と約束してから10年以上。  オレはそれからずーっと、咲に仮装を勧めてるから、こっちも10年以上。  ついに咲の堪忍袋もぷっつんしたらしい。咲に吼えられた。

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