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 体育館に着くと結果発表の最中だった。俺を見つけた青が来い来いと舞台の左の風紀のスペースに手招く。 「ごめん、遅くなった」 「いや。もう体は大丈夫なのか」 「おう、すっかりな」  青が言葉を止め、俺の後ろにいる二村にチラリと目をやる。 「それで……? また拾っちゃったのか」 「人聞き悪いな。まだ青と緑と桃と橙……と他のメンバー諸々しか拾ってないだろ」 「それで今度は二村だろ。結構な人数じゃねぇか、拾いすぎ。元の場所に返してきなさい」 「俺はペットか! バカにしてんじゃねぇ、ダボが!」  黙って聞いてた二村はコメカミに青筋を立てて怒る。よしよしと頭を撫でると不服そうな顔をしながらむっつりと黙り込む。 「……嘘だろ、もう飼い慣らしてる…」  青はショックを受けました! という表情をしながら慌ただしくスマホをタップする。 「何してんの」 「野郎共に……連絡してる…」  青が見せてくれたLINE画面には、『coloredワンワン隊(24)』という文字が踊っている。なんだそれ……。 「ワンワン隊……?」 「赤の犬どもの集会」 「はぁ~???」  正気か。ワンワン隊って正気か。しかも24人。24人ということは俺以外のcoloredのメンバーが勢ぞろいということだ。これだけいて誰も止めようとしなかったのか。え、マジで??? 止めようよ。  げんなりとしている間にもLINE画面は更新され続けている。 青『新しい犬が増えそうな予感』 桃『えっまた~??? すーぐ拾っちゃうんだから赤は~』 橙『何としても阻止しろ。これ以上駄犬はいらない。犬は俺だけで十分』  いや、別に俺犬とかいらないし……。気疲れを感じ、そっと青にスマホを返却する。 「…ん? 橙のやつ、何言ってんだ…。ワンワン隊作ったのは俺なんだから一番必要なのは俺だろうが」 「お前が作ったのかよ……」  不可解そうに告げられた言葉に少し引く。え、何で作っちゃったの…? 何で作っちゃったの…? 「なぁ、俺の知ってる風紀委員長のイメージと違うんだが大丈夫か……? 去年も去年で……イカれた奴だったが」  去年は相沢先輩か。うん、そりゃ……アレだったんだろう。楽しければそれでよし的なところあるしなぁ、あの人……。 「あんまり大丈夫じゃないかもしれない」 「今期の委員長、ずっとこんなだったか……? ここまでゴミじゃなかったと思うんだが」  ドン引きした目で青を見る二村。 「非常に残念だがここの委員長は3年前からずっとこんなだぞ」 「クソが……」  諦めの色の強い目で遠くに向かって合掌する二村に合わせ一緒に合掌する。青よ、安らかに眠れ。 「あっ、そうだ。景品贈与なんだけど。俺たちも出番あるかもしれないから控えとけってさ」  青に告げられた言葉に内心首を傾げる。おかしな話だ。これは生徒会主導の企画ではなかったか。  俺が疑問に思ったのを理解したのか、青がそれがな~と教えてくれる。 「確かにこれは生徒会主導の企画だ。だから向こうも景品についてはこっちと特に相談したりはしなかった。で、だ。俺たちもさっき知ったところなんだが、景品というのがどうやら『生徒会にお願い事を一つできる権利』ならしい」 「はぁ? ギャグかそれ」  俺の疑問に答えることなく青は各クラスに配布されていた新歓の概要が書かれたプリントを眼前に突き出してくる。 「ここ」  『上位生徒には景品が! 運営がお願いを一つ聞いてくれるかも☆』 「……なるほど。はっきりと『生徒会が』って書いてないから俺たちにも出番があるかも、ね」 「そういうことだ」  知ってることしか書いてないだろうとタカを括って読んでなかったのがここで効くとは。青も先ほど知ったという口ぶりから察するに、俺と同じく読んでいなかったのだろう。 「生徒会もそんなつもりで書いたわけじゃなかったらしいが、当日になってから『これって風紀でもアリなんですか』と訊いてきた生徒がいたらしく」  青はそこで言葉を区切る。そしてピースにした右手をスッと目元へ持っていき、左手を腰に当てポーズを決めた。 「"いいんじゃない? 風紀はマリアナ海溝よりも深い慈愛の心を持ってるから許してくれるよ! まっ、嘘だけど!"」  少し高めの声を作って告げられた言葉はどこか聞き覚えのある口調。それにこのポーズ。最近どこかで見たような。 「江坂……?」 「あったりぃ!」 「はあ゛? あれが江坂ァ? 全力で真似してた割に全然似てねぇ……、下手くそか」 「は? クリソツじゃねぇか殴るぞ」 「クリソツって死語らしいぞ」 「えっ、マジで」  わいわいやっている間に景品贈呈(司会の江坂曰くお願い事タイム)がやってきたようである。 「じゃあお願いを順に聞いてくよ~! 風紀の委員長、副委員長へのお願い事もオッケーだからジャンジャン変なこと言って困らそうね! 冗談だけど!」  江坂の煽りに生徒は大いに盛り上がる。さっきお願い事をされることを知った身としては御免被りたいところである。 「さっ! まずは図書委員委員長、水無源次郎(ミズナシーゲンジロウ)さん! カモンッ!」  江坂の言葉で前に出てきたのはたおやかな和風美人といった雰囲気の男だ。どことなくミステリアスな風貌は着物がよく似合いそうだ。これで源次郎とかいう厳つい名前なのか……。 「じゃあお願い事は?」 「レジュメを読んで、こっちの書類に捺印してください」  えっ、待っていきなりすごいの来たけどこれってこういうのアリなのか。チラリと青を伺うと、険しい表情をしている。だよな、やっぱりこういうのは問題があるよな。  書類の内容を確かめるべく青と一緒に壇上に上がる。生徒会の面々もわらわらと壇上に集まり書類を覗く。 「江坂。一部くれ」 「ん? 夏目か。ほーらどうぞ」  水無はレジュメを生徒会と風紀の役持分用意をしていたらしく、俺と青に一部ずつ手渡される。書類には角ばった文字で分かりやすく要綱がまとめられていた。 『図書館のポイントカード導入案について』  簡単に言うと、貸出冊数に応じて貰えるポイントを集めると景品と交換できるらしい。 「ポイントカードと景品の予算についての話し合いもしたいからゴールデンウィーク明けに話し合いの場を設ける。これで構わないか?」  円の言葉に水無は鷹揚に頷く。 「構わないよ、ありがとう」  水無が舞台から退場する。田辺にしてもそうだがこの学園の美人は見た目の印象を裏切りすぎではないだろうか。 「さっ、次! 副会長親衛隊の隊長、保科靖弘(ホシナ-ヤスヒロ)くん! 壇上へどーぞ!」  小柄な男子生徒がアワアワとしながら登壇する。田辺は優しく首を傾げ願い事を促す。 「田辺様っ、僕と手を繋いでくださいっ」 「手? うん、いいよ。あっ、恋人つなぎの方がいい?」  田辺が手を一人でにぎにぎしてみせると保科の顔は真っ赤に染まる。 「いっ、いえっ! 僕なんか! 恐れ多いです…っ!」 「あっ、そう? じゃあ普通に握るね」  田辺は保科の反射的に逃げ出そうとする手をゆっくりと握り、ニコリと笑う。 「これで、お望み通りかな?」  なんて男だ田辺流。色々ともう、なんて男だ。  保科は赤い顔を高速でコクコクと上下に振り、フラフラと舞台を降りていった。降りた先で副会長親衛隊の隊員たちにわぁと囲まれ祝福されている。微笑ましい。

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