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 F組の生徒に折り重なるようにして気絶した宮野に頬を緩める。目の前の三年生に視線を移すと、二人の男はびくりと身を強張らせた。 「寄るなッ……!」 「、ひっ」  怯えた顔で後ずさる二人に、クツリと笑みを零す。ふわりと細められた瞳に、二人は安心した表情で体の力を抜いた。 「やめる訳ねーだろ」  足が頭を捉える。鈍い音と共に二人の体は倉庫を飛びぬけた。ゆっくりと歩を進めると、怯えた表情で助けを乞われる。 「……嫌か?」 「嫌だ! 助けてくれ!! 出来心だったんだ!」 「そうだ! 突っ込みはしたが先しか入んなかった! まだ碌にヤってねぇからッ! だからっ、」 「うるせーな」  這いつくばる二人の顔を蹴飛ばす。歯を吹き飛ばした手応えがあった。上履きに血が付いたことに気付き、僅かに眉を顰める。トントンと爪先で床を叩くと、血だらけの顔がなんで、と呟く。 「宮野は嫌だって言わなかったか?」 「宮野って、」 「あのチビ、」 「簡潔に答えろ」  襲ったくせに、怖がらせたくせに。名前さえ知らないような他人のくせに、人の心に踏み込みやがって。苛立つ心のままに肩を踏み抜く。バキリと鈍い音がしたから折れたかもしれない。まぁそんなことどうだっていいが。踏み抜いた肩をにじるように嬲ると、歯の抜けた口から呻き声が漏れる。早く、と促すと二人は悲鳴を上げた。 「言ったッ、言ってたッ!」 「で? お前らはどうした?」 「……、」 「答えろ」 「ガァッ」  顔面を蹴飛ばす。鼻でも蹴ったのか床にぽたぽたと血が滴った。血だまりで汚れた靴裏を、男の背中をにじり綺麗にする。 「ぐ、ぁ、あ゛」 「っ、そのまま無理矢理犯そうとしたッ! もういいだろ、死んじまう!」 「あ?」  足を掴み、放り投げる。 「いいわけねーだろ。心配するな。どれくらいやったら人が死ぬかは、俺が一番よく分かってる」  ニヤリと笑い、倉庫に戻る。取り出したのは、鉄パイプだ。 「……嘘だろ」 「待て! なぁ待てって!」 「おら、くたばれ」  爆発音にも似た音が旧体育館の床を突き破る。舞い上がる埃煙に目を細める。しょろろろろ……。床に二つの新たな水たまりが作られる。悪臭に鼻を押さえながら俺は溜息を押し殺した。 「なっさけな」  頭のすぐ横に刺さった鉄パイプ。その隣には気絶し放尿した血だらけの男二人。俺はその二人を無視し、宮野とスキンヘッドの具合を確認する。宮野は服も肌蹴ていて、明らかに襲われた後だった。加害者の自白もあることだし、被害にあったのは間違いないだろう。見るからに重症なのはスキンヘッドだ。先程から体育館の外が騒がしい。きっとそいつらにやられたのだろう。意識のないのを見るに、脳震盪の可能性もある。外の騒がしさにまだこの二人を回収して去ることは難しそうだと判断した俺は、よっこらせと立ち上がる。さて。そろそろ第二ラウンドと参りましょうか。  瞬間、体育館のドアがガキリと外れ、人が雪崩れ込んでくる。その数ざっと四十人。どんどん騒ぎが拡大しているのだろう。あの様子だと三年のみならず一年の一部も混ざっていそうだ。チッと舌打ちをし、睨みつける。誰から来るかと見ている内に気付く。様子が変だ。  雪崩れ込んできた集団の中心から、人が飛ばされていく。それはさながら一筋の道を作るかのように。真っすぐ俺に向かって伸びた道は、進路を阻害する集団を一通り投げ終わるとその姿を現した。 「ッ、赤! 一人で行くな!」 「青……」 「ったく、祭りは皆で楽しむものだろ?」  なぁ?  青は緩く浮かべていた笑みを消し去り、獰猛に集団を睨みつける。 「青。さっさと片付けるぞ」 「了解」  来いよ、と手で煽る。青の特攻に怯んでいたF組は、一気に激高する。飛びかかってきたFを、背を合わせるようにして相手取る。飛び交う拳、肉を打つ音。骨のぶつかり合う音。時折きゅと体育館の床が鳴る。上履きのゴムの擦れる音を聞きながら俺たちはFを制圧した。  最後の一人を倒したのは俺だった。  退きぞり返りながら倒れる男をぼんやりと捉えた。怪我は? と問う青に大丈夫と返し、倉庫に匿っていた宮野を背負う。宮野の手は俺を青だと勘違いしているのか、しかと俺を抱きしめた。スキンヘッドを肩に担いだ青は、行こうかと俺を促した。行き先は、南部先生の待つ保健室だ。  外はもうすっかり日が暮れていた。そりゃそうだ。今は夜の七時。初夏とはいえ灯りの少ない山奥だ。明るいのには限度がある。保健室に着くと、南部先生がいつも通りといった様子で迎え入れてくれた。先生、と何ともなしに呼ぶと先生はゆっくりとこちらに目を向ける。瞳の奥は、僅かに険しさを宿していた。浅く頷いた先生は風呂に入るよう宮野を促した。声を掛けられ目を覚ました宮野は、俯きながら俺の袖を引っ張る。 「先輩、洗うの手伝ってくれませんか」 「、え」 「お願いします。洗う時傍にいてくれるだけでいいんです」 「それなら青の方が」  適任なんじゃないのか。  そう言いかけた言葉は宮野の震える腕を見ると同時飲み込まれる。 「……分かった」  頷くと、宮野の空気が僅かに弛緩した。

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