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「つまり、牧田の命令に納得できない一、三年が暴れてるってことか」
「はいっス」
「で、さっきのが牧田をトップから下ろそうとする奴らとの抗争だったと」
「はいっス。恥ずかしい話っスが」
青は唇の下に指を押し当て、考えを巡らせる。
「……なぁ、赤。これまずくないか?」
「あぁ。かなりまずいな」
状況の飲み込めていない宮野と南部先生に目で訴えられ、説明をする。
「さっきの抗争、俺と青が勝っちゃったんだよ」
そして、牧田は外野の動きに拘らず三年になったらF組を出ていく。つまり、どういうことか。
「さっきの抗争の勝利者が次のFのトップになるだろうな」
牧田が出ていった後、誰がトップかとF組は十中八九荒れる。そんな時、有利に立てるのは誰か。当然、以前抗争に勝利した奴だ。だが、実際抗争に勝利したのは俺と青の二人。
考える奴は、必ず現れる。俺と青さえ倒せば、次のトップは自分だと。
「俺と青の周りが荒れそうだな」
「チッ、いっそ風紀に取り込むか?」
青の投げやりに呟いた言葉にハッとする。青は俺の視線に気付くと、ひくりと頬を引きつらせた。
「赤ぁ……?」
「案外名案じゃないか? 本校舎の生徒は、Fが風紀の管轄になることで安心を買える。学園の治安を守る存在にFが就くことで、Fの立場も上がるかもしれない。こっちも人員を確保できる」
「そりゃ、Fを掌握することさえできたら名案だろうが」
青は渋い顔をする。
「赤。人の心はそう簡単にいかないぞ」
そっと触れられた背中に、青が何を頭に浮かべているかを理解する。あぁ、確かに。人の心はかくも難しい。
「喧嘩して解決する問題には限界がある。でなきゃ牧田が下した奴らだって暴れねぇ」
「……できないか」
自然と視線は床に落ちる。青は苦笑し、いんや、と俺の睫毛を指で掬った。
「きっとできるよ」
「、」
「でもな、それをお前一人で成そうとする必要はない。俺はお前が人に頼りやすいよう地位を渡した。使わずに傷つくのは、もうやめてくれ」
指は、頬にスライドした。チリリとした痛みを感じ、にわかに背筋を正す。先程の喧嘩で怪我をしていたのだと今更気付いた。青は俺の様子に、不愉快そうに目を細める。
「……由」
「っ、なに」
常と異なる呼び名に言葉が詰まる。青は困ったように口元を緩めると俺の頭を骨に沿って撫でる。
「俺を使え」
「青、」
「頼るのが難しいなら、使えばいい。由。もう一人で傷つくのはやめてくれ。頼むから、」
「あお」
「俺が風紀委員長になったのは、」
切羽詰まった表情で青が言い募る。心が奇妙な音を立てて跳ねる。不可解な気持ちに戸惑う俺に、青はまるで罪を告白するかのように押し殺した声を出す。声が小さいのにもかかわらず、その場の誰も言葉を発していないからか、言葉はダムが決壊しそうなまでの勢いを持っていた。いや、俺の胸が変に高鳴っているからそう感じるだけだろうか。
青の視線が俺を捉える。青と呼ぼうとした俺の唇にひたりと指を押し当てると、青はくすりと笑う。
「俺が風紀委員長になったのは、」
「はーいお邪魔しまーす! お、じゃ、ま、しまーす!」
青が何事かを言おうとした最中、声が乱入する。緊張の消し去る感覚にホッと息を吐く。
「牧田」
「根岸に話聞きに来たのに何これ。ほーんと何これ」
やれやれとやけにオーバーな振る舞いをする牧田に、青はむっむりとした表情をする。
「お前わざとあのタイミングで入ってきただろ」
「ったり前だよねぃ。お邪魔するために入っていきましたとも」
「こンの……!」
ギリ、と握り込んだ拳に青筋を立てる。まぁまぁと青筋を撫で宥める。
「ちゃんと聞くから、な?」
青はうっと息を詰まらせ、牧田を睨みつける。ほぅ、と溜息を吐いた青は、俺の頭をくしゃりと撫で付け、風紀委員長らしく頼もしい笑みをこぼした。
「俺が、由を守りたいってことだけ。それだけ覚えておいて」
「……十分守られてる」
「足りない。俺なしじゃ……、」
「俺なしじゃ?」
言い淀んだ青の頭を、牧田が勢いよく叩く。頭がぶれた拍子に舌でも噛んだのか、青は唸りながら口元を押さえる。
「俺なしジャーマンポテトって言おうとしたんだよねぃ!?」
「いやなんだそれ」
入ってたら割と気持ち悪いだろ。
「あっ、違うわ。お礼にジャーマンポテト買いたくなるくらい、って言ってる」
「んーんーんー!!!」
「すごい抗議してるけど」
それにあれは……あの言葉の続きは……。思い浮かんだ言葉を、青の掠れた声が脳内で囁く。再び奇妙に跳ねた心に小首を傾げる。俺は軽く首を振ると、ふざけた事を必死に言い募る牧田に尋ねた。
「ところで、牧田はなんでここに?」
「あっ、そうそう。F内部で抗争が起こってるって聞いてねぃ。一人戦った奴が根岸で、保健室にいるって聞いたから足運んだんだよねぃ」
ほら、俺ってリーダーだから?
そう言い牧田はへらりと笑う。
「で、その盗み聞きしてたリーダーは、赤の計画に協力するのか?」
なんとか復活した青は、恨みがましそうに口元を押さえながら牧田に尋ねる。
牧田は青の皮肉を気にする事なく笑うと、気負う事なく答える。
「もちろん。風紀の傘下にFが入るんだよねぃ? なーんも問題なし」
「お前な、」
「俺だって何も考えてない訳じゃないよぅ」
牧田は軽口をやめ、視線を鋭くさせた。
「Fでの、菖ちゃんの立場を知ってる?」
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