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 二村の、立場?  嫌な予感に牧田を見やる。牧田は困ったように眉を下げて笑った。 「気に病まないで、ほしいんだけどねぃ」  牧田はそう前置くと、二村について話し出す。 「菖ちゃんは、風紀に所属してるFとして、今すごい微妙な立場なんだよねぃ」  いわく、二村は牧田がやってくるまではFのトップを張っていた。その名残で、未だに二村をトップ視している輩も一定数いる。しかも、二村は現トップの牧田の相棒。つまり、二村の本来の立場はかなり盤石なのだ。  しかしそれに水を差す要因が一つある。言わずもがな、二村が風紀に所属していることだ。Fのトップカーストに属する二村が風紀に所属していることで、彼の立場は現在微妙なものになっている……らしい。  考えてみれば、当たり前の話だ。ただでさえFは生徒会・風紀に対して反発心が強いのだから。二村の立場が盤石なものであったからこそ、「微妙な」立場程度で済んでいるというものだろう。むしろ、何で今まで気付かなかったのか。もし、二村の立場が弱ければ──  肩を叩かれ、ハッとする。目の前には、相変わらず苦笑を浮かべた牧田の顔。 「言ったでしょ。気に病むなって。流石に菖ちゃんも何も考えず風紀に入った訳じゃないし」  ある程度の計算をしたうえで問題がないって思ったから着いてったんでしょ。  呆れたように告げる牧田に、そうかなと問い返す。片眉を上げ返された、当たり前という答えに俺はほっと息を漏らした。 「それで?」  青が話を促す。 「……椎名が気に病むほどではない。ないし、菖ちゃんも実際気にしてない。あれでも元トップだからね。それでも、さ」  牧田は照れくさそうに微かに笑って、 「やっぱり友達には居心地よく過ごしてほしいじゃん」  珍しくどこか子供っぽい表情を見せる牧田に、目が惹きつけられる。途端、悪戯っぽい表情に一転し、ニヤリと口角を持ち上げる。 「なに、見とれた?」 「え」 「……そんなびっくりした顔しないでよ。自惚れが過ぎて恥ずかしくなる」 「いや、」  うろ、と言い訳を探し視線を彷徨わせるも、牧田の照れた表情につられへらりと笑う。 「案外図星だったからびっくりして」 「っん゛」  口元を手で覆い隠し俯く牧田と、スパンと牧田の頭を叩く青。なんでさっきからこの二人漫才じみてるんだ。 「羨ましいからって暴力に走るとか、やばぁん」 「蚊が止まってたんだよ感謝しろ」 「オラ喧嘩すんな」  コン、と机をノックすると、二人は渋々と口を噤む。 「じゃあ、F組を風紀に取り込むってことでいいんだな?」  無理やり話をまとめ、確認をとる。返ってきた首肯に、ふむと静かに唸る。作戦を考えはじめた俺に、牧田は「あ」と声を上げる。 「ん? どうした?」 「あいつらが事を起こす時期、コントロールできるかも」  そうなの? と話を促す。 「俺、テストの後、実家に呼び出されてるんだよねぃ」 「、そうか」 「……うん、何の話かは分からないけど。それでね」  一瞬動揺した俺に牧田は頬を緩め、言葉を続ける。 「Fが事を起こすなら、俺のいない時が狙い目でしょ?」  ケロッとした顔で家の話題を口にする牧田に、彼の中で実家の立ち位置が変わったのだと気付かされる。牧田は俺の表情に目を細め、不意に頭を撫でてくる。 「……なに」 「嬉しくなっちゃって」 「……撫でんな」  首を逸らし手から逃げる。俺と牧田の攻防に、青はけけけと意地悪く笑う。 「ざんねーん。赤を撫でるのは俺の役目でーす」 「いやお前も撫でんな」 「なんでっ」  ガンとショックを受けた風の青に今度は牧田が笑みを深める。 「手汗が臭いんじゃね?」 「おー、じゃあちょっと確かめてくれるか?」  牧田の顔をぎりぎりと掴む青。牧田も負けじと青の足をにじり踏む。 「あーくっさい。マジくっさいぃぃでででででこの野郎」 「誰が汗臭いじゃこのニコチン野郎っ、ぃだだだだだだ」 「……」  いがみ合う二人の頭に、手を乗せる。よしよしと頭を撫でると、二人はかちりと硬直する。 「撫でられるのは、照れるだろ」  な?  と同意を求め首を傾げる。ボンと顔を赤く染めた二人に、ほらと勝ち誇ると、「そうじゃない」と噛みつかれる。なんでだよ。 「顔赤くして言われても」 「不可抗力ー!!」  やいのやいのと騒ぐ二人をいなし、作戦を決める。  そしてテストが終わり、結果発表の日。結果にはしゃぐ声、落ち込む声で校舎が溢れている中、それは起きた。

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