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風呂上がり。頭にタオルを乗せ部屋へと戻る。まだ部屋ではトランプをやっているのだろうか。風呂に行くからと途中で離脱したゲームのその後に思いを巡らせる。なかなか白熱した展開だったが、結局誰が一番勝利したんだか。途中から賞品付きになった一位を予想する。俺が参加していた時点では、一番勝利数が多いのは林だった。次いで田辺、柴の順だ。なんとなく勝負事に強いイメージだった、と日置に零すと、こういうのは状況を見守っておいた方がおいしいのだと笑われた。どこまでも日置らしい主張である。
玄関を通りかかった時、喋り声が聞こえた。聞き慣れない声に、なんだろうと顔を覗かせるとおや、と声をかけられる。
「椎名くん。こんばんは」
「こんばんは。お邪魔しています」
会話をしていたのは青のお父さんと片岡さんだったらしい。話すのは夏休みの電話以来か。あのときとは違う落ち着いた声のトーンの挨拶に、俺はぺこりと頭を下げた。そういえば昼に片岡さんが言ってたっけ。
「椎名くん……、」
何かを言いかけた夏目さんは、続ける言葉を探しあぐねたのか結局何も言うことなく口を噤んだ。痛ましそうに目をすがめ、ぽんと俺の肩に手を置く。見れば片岡さんも同じような表情をしている。重々しく首を横に振った片岡さんに、夏目さんは浅く頷いた。
「何かあったら、力になるから」
「……? はい」
「それじゃあ、ゆったり過ごしてくれ」
立ち去ろうとした夏目さんははたと視線を俺の後ろに投げる。振り返ると、そこには青が。夏目さんを見た青は、硬い表情で頭を下げる。
「久志」
「……はい」
「友達と仲良くな」
「っ、はい」
ばんと勢いよく叩かれた背中に息を詰まらせながら、青は返事をする。背を向け玄関を立ち去った夏目さんは、どんな言葉を飲み込んだのだろうか。嫌な予感を胸に抱いてしまうのは、俺の考えすぎだろうか。思わず黙り込んだ俺の頭を、青はなだめるように撫でた。その仕草はどこか夏目さんの手に似ていて。やはり親子だなと密かに頬を緩める。
「部屋に戻ろうか」
「ああ。……トランプは結局誰が優勝したんだ?」
「田辺が後半林を追い上げて逆転優勝」
「ふっは、そりゃ大喜びだな」
「賞品として明日のバーベキューで肉多めにしてもらうらしいぞ」
実益取りに行ったな。おいしく焼いてやろうと口角を上げる俺に、青は笑って頷いた。
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