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第2話

倦怠期なんて俺達には無関係だと思ってた。 幼馴染みで同い年の恋人、伊沢秀志(いざわしゅうじ)と同棲を始めたのが高校を卒業して東京に上京した18歳のころ。 それからはずっと順風満帆で気付いたらお互い28歳になっていた。 そんな生活を一変させたのは同棲から10年の月日が経ち、大学を卒業してお互い就職をして社会人生活にもすっかり慣れた頃。 その頃に秀志の転勤が決まった。 それが去年でもうすぐ一年。 転勤先が新幹線で2時間くらいの距離だったし、そんな大したことないと思っていたはずなのに、蓋を開けてみたらそれは予想外に上手くいかなかった。 サービス業界に進んだ俺と一般企業のサラリーマンの秀志。 土日休みと土日が仕事の俺達が会うこともままならず、お互いマメな方じゃないからメールやLINEのやり取りもそれ程しない、それに帰りが深夜になることが多い秀志は電話をしても留守電が殆ど。 そんな感じで俺達は次第に会う努力をしなくなっていった。 だから、今も秀志の声をいつ聞いたかさえ思い出せないくらい連絡を取り合ってない。 「ただいま……」 誰もいない部屋に明かりを付けて、鍵を靴棚の上に無造作に放り投げる。 こうして1人の生活に慣れすぎてくると、本当に俺達は終わったのかと思ってしまう。 実際に別れたわけではないし、そんなつもりもない。 ただ、あいつに会いたいとか寂しいとかそういう気持ちが日に日に薄くなっていて、これが倦怠期ってやつなのかなって実感することが多くなった。 ネクタイを緩めながらテレビを付け、手洗いうがいを済ませると冷蔵庫からビールを取り出しソファーに座る。 プルタブを開け、一口飲んでため息を吐きながらなんの変哲もない天井を見上げることが最近の習慣になっていた。 「あー疲れた」 そして一言吐き捨て、かけていたメガネを外すと今日が終わる。 “幡谷(はたや)って目が綺麗だからコンタクトにしたらいいのに” いつだったか秀志に言われて一度はコンタクトにしようと思ってみたけど、結局は合わなくてメガネに戻してしまった。 その後も時々コンタクトの話題が出たが、めどくさい性格のせいもあってメガネのまま過ごしている。 「コンタクトどうしたっけな……」 何気なく秀志に言われた一言を思い出し、引き出しを探してみる。 するとカランと音がして何かが床に転がった。 これ…… 拾い上げると一気に懐かしさが込み上げて、フラッシュバックのようにあの頃を思い出した。

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