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第3話
秀志との出会いはずっと昔、同じ幼稚園に通っていた頃。
何故か親ではなく、爺ちゃんに送り迎えをしてもらっていた秀志を不思議に思い、ある日理由が聞きたくて話しかけたのが最初の会話だった。
当時、秀志の両親は共働きで忙しかった為、爺ちゃんが送り迎えをしていたらしい。
お互いに家が近所で同い年だったこともあり、それからはいつの間にか一緒に遊ぶようになり、秀志の爺ちゃんとも何回か遊んでもらったりした。
それから月日が流れ、気付いたらあいつがいつも隣にいて、その延長線上で俺はあいつに友達以上の感情を持つようになった。
少し癖のある黒髪に、猫みたいな切れ長な目に鼻筋の通った整った顔立ちで、時々掠れるどこか甘さを含んだ不思議な声。
性格も、誰からも愛されるような可愛いさとかっこよさが混同したような秀志は昔から女の子にモテモテだった。
幼稚園から大学までずっと一緒の俺は数えきれないくらい告白の現場を見てきたし、恋の相談も受けた。
そんな恋の相談も中学くらいまでは親身に話を聞いていたけれど、ある日を境に純粋に耳を傾けられなくなってる自分に気づき、これが嫉妬なのだと初めて知り、そこで秀志に友達以上の感情を抱いていることを自覚した。
それが中三くらい。モテるあいつとは対照的に地味で大人しい性格の俺にはどうすることも出来ないまま、月日は流れ気持ちをひた隠しにしながら中学も卒業式を迎えた。
「幡谷、これあげる」
そして卒業式が終わったあと、何の前触れもなく突然渡された制服の第二ボタン。
てっきりお目当ての女子にあげるものだと思っていた俺は、渡された時面食らってしまった。
「俺は幡谷のこと……ずっと好きだった……気持ち悪いと思ったらちゃんと断ってくれ」
そのまま思いもしなかった告白までされ、ずっと片想いのままだと思っていた状況が一変して、俺達は恋人同士になった。
引き出しから転がり落ちたあの時の第二ボタン。
それを眺めながら、久しぶりに声が聞きたいと思ってテーブルの上のスマホに手を伸ばした。
もうすぐ23時。深夜に電話することなんて殆どない。
だから、10回コールしても出なかったら切ろうと思った。
耳に聞こえてくる呼出音を1、2、3と数えていく。
そして9回目のコールの時、もしもしと焦ったように声が聞こえてきた。
「あ、出た」
『なんだよ、もっと他に言うことないのかよ』
「いや、出ないと思ったからさ」
聞けば今ちょうど帰ってきた所だったと慌ただしく説明された。
『珍しいじゃん、円果から電話なんて』
「うん、何となく……声聞きたくなって」
『へー。今日のまーくんは素直だねぇ』
「うるせーよ。つか、まーくんて呼ぶな」
俺たちが小さかった頃はお互いにまーくんとしゅうくんと呼び合っていて、さすがに小学校に上がる頃には苗字で呼ぶようになり、そして名前で呼ぶようになったのは付き合ってから。
だから秀志はいまだに、あだ名、苗字、名前とその時々の気分で使い分けて俺を呼ぶ。
『円果だってたまにはしゅうくんて呼んだっていいんだぜ?』
「呼ばねーよ」
久しぶりに秀志と話をして心地良い雰囲気に、今までの疲れが一気に吹っ飛ぶ。
こいつと話しているだけで無条件でこんな気持ちになれるのは情からか愛からなのか……
そんなことを頭の片隅で考えてる時点で今と昔では何かが変わってしまったのかもしれない。
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