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第4話
『円果?……おーい』
「え?あ、ごめん」
『そっち、仕事忙しいのか?』
「ああ、まあまあかな。ほら、もうすぐハロウィンだろ?サービス業はそういうイベントがあると色々大変なんだよ」
俺の仕事は百貨店勤務で、それこそこれから年末年始は怒涛のような忙しさがやってくる。
ハロウィンはまだマシだけど、それでも当日に向け館内をデコレーションしたりイベントの準備をしたりと忙しい。
『当日は円果も仮装とかすんの?』
「しないだろ、多分」
宝飾品売り場配属の俺は仮装までしない。
その代わり、多分当日はいつも以上に恋人同士の来店が増え忙しいはずだ。
いつの時代もイベントにプレゼントはつきもので、指輪やネックレス、時計などがやたらと売れる。
誰かの為に何かを贈る行為は、売る側としたら幸せなことなんだけど、たまに、結婚指輪を選んでるお客を対応していると少しだけ羨ましいと思ってしまう。
『あのさ、円果のとこって結婚指輪とかも売ってる?』
「え?!」
今、俺が思ってたことを見透かされていたように突然そんなことを聞かれたものだからびっくりして声が裏返ってしまった。
『何、変な声出してんだよ』
「い、いや……。結婚……指輪も売ってるよ」
『……そっか、特に意味ないんだけど、売ってるのかぁって思っただけ。でさ、ちょうど俺も電話しようと思ってたんだけど、週末実家に帰ってくる』
「実家?」
「ああ。この前の爺ちゃんの三回忌出れなかったから墓参り』
「秀志の爺ちゃん亡くなってもうそんな経つのか」
小さい時によく遊んでもらっていた秀志の爺ちゃん。
俺の爺ちゃんは俺が生まれる前にすでに他界していて、それもあって当時は自分の爺ちゃんのように懐いていた。
年の割には見た目が凄く若くてダンディーで、若い時には秀志と同じように女の子からモテモテだったらしい。
それにノリがよくてちょっとお茶目な性格と面倒見がいい所があり、そんな秀志の爺ちゃんが俺は大好きだった。
『早いよな……あっという間だよ。それでさ、あと一つお袋から言われてることがあって……』
「おばさん?」
『なんかさ……俺の見合い話が出てるらしいんだよ……』
いきなり実家に帰る報告を何故俺に?と思っていた所にまさか見合い話を聞かされるとは……正直びっくりだった。
「それで実家に……」
『そう……。とりあえず早めに一度帰ってこいって煩くて……だから、一応報告しとこうかなって』
「そっ……か……」
見合い話が出ているだけで、実際見合いをするかなんてまだわからない。
ましてや、秀志が断ることだって……
でも、断るんだろ?とは言えない自分がいた。
だって、俺たちの関係なんて何の保証もないし、一生このまま一緒とも限らない。
世間的には結婚することだって出来ない。
だから、秀志が誰かと結婚して幸せになれる道があるならその方がいい。
ずっと一緒にいたいと思う気持ちは今も変わらない。
けど、あいつは俺といて幸せなのか。
歳を重ねるごとに後者の思いは大きくなるばかりだった。
「気を付けて行ってこいよ、おばさんによろしくな」
『円果……』
「じゃあ、そろそろ寝るから。遅くにごめんな」
『ちょっ!まど……』
突然突き付けられた現実に、急にどうしたらいいか分からなくなった俺は、一方的に電話を切ってしまった。
もしかしたら、俺が断ってくれと言うのを待っていたのかもしれない。
だけど、そんなことを言う権利が俺にあるのか……
秀志の幸せ。
それを願っている気持ちは誰よりも強い。
だからこそ、俺は何も言えなかった。
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