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味見

「そう、だから、お菓子くれなきゃイタズラできる日らしいっす」 「ふはっ、なんだそりゃ。第一せっかくアップルパイあるのに、お前がいらねえっつったんだぞ」 「……イイ匂い、する」  何故か両手で顔を覆ってしまった紫乃に、そんな腹減ってんなら食えよ、とアップルパイの入ったパン屋の袋を差し出す。  やつはそれを一瞥したあと、そこから流れるように俺を見上げた。  手の指の隙間から見えた紫乃の視線が、どこか少し妙な感じがして、そこで初めて、俺はずっと感じていた違和感に気付く。  なあ、お前……、そんな紅い目だったか?  最初からだっけ。いや、でもそうなら、もっと前から気がついていたはずだ。  紅い瞳の奥の揺らめきが、なんかちょっと、背筋がぞくり、として。 ……俺は、紫乃に目を奪われ、凝視したまま固まった。  心臓がなんか、変だ。  この前、紫乃が俺に笑顔を向けたときと同じ。 綺麗なんだけど落ち着かなくて、背中がざわざわして、今すぐ逃げたい、見たくないって、思う。 ……そう。だから、他のことを考えていた俺は、反応が遅れた。 「だったら……、味見、させてください」  俺は突然、紫乃に掴みかかられる。 ……は?  風邪と空腹で頭おかしくなったのか……?  内心の動揺を悟られないため、せめてそう口にしようとする──前に、指が肩に食い込んで、ミシミシと骨が軋む感覚と、鋭い痛みにとっさに呻きが漏れた。 「ぁ゙……っ?! 」

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