9 / 16

侵食

 血みたいな真っ赤な目が、目の前にある。  吸い込まれそうなそれに、俺は愕然と見上げたまま、金縛りのように動けない。  なんだこれ……なん、で?  そこまで俺のことキライだったのか?  だったらもっと早くに言ってほしかった。  何だかんだ紫乃に懐かれていると思って、嬉しかった、のに。  今までのこと全部、この半年間ずっと、俺の勘違いだったのか。  首許のシャツを引っ張られ、ブチブチッ、と制服のボタンが飛んだ鈍い音と感触がして、 「お菓子くれたところで、もれなくイタズラしますけどね」 「っな……、ッ!」  紫乃の顔が、ぐっと近付く。  目がキラキラと紅いのが、まるで外国の人形みたいで綺麗。  だけど、その宝石みたいな作り物っぽさのせいで、底知れぬ恐怖が沸きあがる。  唇の隙間から見えた歯は、不自然なほど鋭利に尖っていた。  抵抗する間もないくらい、一瞬の出来事だった。  それなのに、全てがスローモーションみたいで。 ──やばい、と思ったときには、紫乃の鋭い牙が、俺の首筋に食い込んでいた。 「──っいァ゙?! あっ、あぁァあ゙あ……ッ!、あぐっ、は、ぁっ、ァあ゙……っ!!」  ッいやだ、いやだいやだいやだっ、熱い……っ!  あつい、あついあつい、いだい、痛い、なんで、なんでなんで、いや、いやだ。  たすけて、やめて。いたい。だめ。  ごりごりと嫌な音が、体内から神経を伝って、耳に直接響く。  鋭く太い牙が、皮膚を突き破る。 ……だめ、だ、これ。  逃げなきゃ、逃げたい。なのに、からだ、動かない。

ともだちにシェアしよう!