10 / 16

変化

 全身が、見えない何かに縛られているようだった。  体温が急激にあがって、身体中から嫌な汗がぶわりと滲む。  噛まれたところから吹き出した血をすすり、吸われているのが分かる。  細胞ごと流れ出ていくような感覚に、背筋が凍って、指先までチリチリと痺れて。  目を見開いたまま、俺は瞬きもできず、恐怖心で動けない。 「……っや、ぁ゙、ひィ、あぁ゙……ッ、」  味わったことのない苦痛に、喉から悲鳴のような、震えた喘ぎが滲みでる。  身体に起こった許容量を越えた衝撃、情報、苦痛に、じわりと涙が溢れた。  無意識に、生理的なそれがどんどん頬を伝って、そのまま俺は、どさりとベンチに押し倒される。 「……ッや、やあぁ゙……っあぐ、ふ、うぅ……っ」  顔を背けると、俺に合わせて紫乃の唇が追ってくる。  どうにか紫乃から逃れたい一心で、どんっと胸を叩くと、その手を掴んで、頭の横で押さえつけられてしまう。  些細な抵抗さえも捩じ伏せられ、問答無用で屈服させられる。  理不尽な屈辱と不甲斐なさに、また涙がこぼれた。 「ぃや、だ……っ、しの、やめ……ッ」  何も答えないのが、余計に不安を煽る。  お前、紫乃だよな……?  いつもみたいに、整った顔を歪めてちょっと卑屈に笑う顔が、見たい。  早く言ってくれ、冗談ですよ。って。  もうなんでもいいから、喋って、俺を見て、安心させてほしい。  流れの速くなった血は全身を駆け巡っていくのに、首筋から全て抜きとられていくような、死の淵に立たされたような危うい感覚が恐くて、身体の震えが止まらない。  じゅるる、と血をすする音が耳許で聞こえて、ゾッとする。  赤黒い血液がとめどなく浮いては溢れる傷口に、紫乃の舌先がぬるりと差し込まれた──、瞬間だった。 「っあ……、ひァ、ァあ──ッ?!」  朦朧としていた意識が、急浮上する。

ともだちにシェアしよう!