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知りたくない

 目の前がチカチカして、目をあけているのか、そうでないのか分からない。  舌先で抉られた首筋から、毒でも回ったように全身の血が熱くなり、今度は冷や汗ではない汗がじっとりと身体を濡らした。  背筋を這い上がってくる、ビリビリとした電気みたいな痺れ。  腹の底から沸きあがってきたのは……、甘ったるくて強烈な、紛れもない──快楽だった。 「やっ、だぁ……ッ、あっ、あ、しの、やっ、め……ぇっ、ん、ンぅ……!」  なに、これ、なんだこれ。  なんでこんな……、変だ。おかしい。  こんな、補食対象みたいに一方的に首を噛まれてるのに。  突然起きた、自分の身体の変化について行けない。  認めたくなくて、痛みだけではない熱くいやらしい疼きが恐ろしくなって、俺は抑えられていないほうの手で、必死に紫乃の肩を掴んで引き離そうともがき、暴れる。  気持ちいい……なんて。そんなはず、ない。 「っは、なせ……ッ! やだ、ぃやだ……っ、しの、紫乃ぉ……っ!」  恥なんてかなぐり捨てて、泣き叫ぶ。  そうしている間にも、甘い強烈な毒は少しずつ、だけど確実に俺を蝕んでいって。  痛みが引いたおかげで動けるようになったはずなのに、身体の自由がきかない。 ──紫乃が、俺のナカに入って、くる。  何故かは分からないけど、そんな気がした途端、全身の細胞が悦んでいるように、意識は混濁として、身体は恍惚としだす。  そう感じてしまう自分が嫌で、恐いのに、制御できない。 「ッんぁ、あ……っ、しの、しの……っ、紫乃ぉ……ッ!」 「……っ、」  もうやだ、こんな声、恥ずかしい。  硬直していた全身の筋肉がどんどん弛緩していく。  俺はぐったりと、紫乃に身体を預けて、されるがまま、喘いで。  腹のナカが、じゅわりと熱く、甘だるくなる。  こんな快楽、知らない。  知らなくてよかった。知りたく、なかった。

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