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ごくん、と

 とろとろに溺れ、冒頭していく自分が恐ろしい。  こんな、こんなの、ずっと続いたら俺、どうなんの?  終わりの見えない快美が、こわい。  そう、思ったとき、 「……っ、せんぱい、」 「っひぁ、んん、あ……ッ」  ずるり、と首から太くて鋭利な牙が抜けて、粘膜を擦りあげる生々しい感覚に腰から背中まで震えあがる──同時に、血液で濡れた唇が、そのまま俺に降ってきた。 「あぅ、ん……ッ、う、んぅ……っ!」 ……うあ、これ、おれ、キスされてる。紫乃に。  なんで、お前、わざわざ俺相手にそんなことして、楽しいの?  頭の片隅で一瞬思うが、口を塞がれて言えない。  言えないまま、食らいつくように口付けられ、舌先が捩じこまれて、そうして、口のなかに、ころりとした丸くて固いものがあるのに気付いた。  紫乃に会う前に口に放りこんでいた、まだ完全に溶けきっていない、飴だ。 「んふ、ぅ……っ、んあぁ……っ」  口内にあった飴の存在なんて、すっかり忘れていた。  飲み込みそうになるそれを舌で押しかえしたら、紫乃のぬるついた熱い舌と一緒に絡められて、さらに喉の奥まで移動する。  いくら小さくなっているからって、このままだと飲んでしまう。  やばい、喉、奥……苦しい。  息がしたい、のにできない。  なのに紫乃は俺の気も知らないまま口内を蹂躙してくる。  甘いような苦いような鉄くさい血の味と、飴の人工的な甘酸っぱさに、じゅわりと唾液が溢れて、口端からこぼれ落ちる。 「ひぁっ、あ……っんむ、ぅ゙ー……っ!」  舌を突っ込まれたまま、じゅるじゅると吸われて、さっきまでの快楽が、思い出したように溢れ出てきて。  腰がゆらりと揺れ、背骨の内側にざわざわと何かが突き抜けて、ごくり、と喉が動いた拍子に、 「っ、ッ……ぁ、! あ、飴……っ、」 「?」 「飴……、飲んじゃっ、た……っ」  放心した状態で、それだけ口にする。  突然びくついてすぐに鎮静した俺を驚いたように見守っていた紫乃が、正気を取り戻したように、くすりと笑った。  それを見て、俺は心の、腹の底から安心して、一気に脱力感が襲ってくる。

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