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いたみ

「そんな、突発的なわけない。我慢できなかったのは、悪いと思ってます……ほんとに。チカラが弱いから、俺の体液を摂取するまで、すげえ激痛だったんすよね?」 「た、体液……」  改めて口に出されると、ちょっと恥ずかしい。  でも、そうか……。  確かに、だから傷口に舌を捩じ込まれたあとから、急に身体が熱くなって、その……、身悶えて、しまったのか。 「ごめんなさい。痛くて恐い思いさせてしまって……。傷は、今日のうちには治ると思うんで」  そう言って、紫乃は俺から身体を離し、ベンチからおりる。  そのまま俺を置いてどこかへ行ってしまいそうな雰囲気を感じて、慌てて会話を続けた。 「まっ、ちょっと待て、お前、こんな状態の俺を放っておくつもりか……っ」 「……離れないと、また襲いそうなんで」 「っはあ?」 「そもそも俺、今まで数こなしてきてないんすよ。だから加減が、あんまり分かんなくて」  困ったように笑う紫乃に、俺はぽかんと見上げる。  紫乃の瞳はもう、紅くはなかった。  それにとてつもなく安心した。  吸血鬼なんて、ただの偶像だと思っていたけれど。  実際に血を吸われて、紅い目を見て、自分の身体でやつが何なのかを身をもって体感した俺は、勘違いだと笑って済ますこともできなかった。 「血を吸いすぎると殺してしまうのに、もっと欲しくなるんすよ。先輩だって、俺に噛まれて気持ちよくなっちゃったでしょ?」 「……えっ、ぅ……あ、いや、その、なんつーか……」 「あれも、全部俺のせいっすよ。先輩はなんも悪くない。大昔はそうやって、催淫作用のせいで、気持ちよくて逃げられなくなった相手を、死ぬまで吸血したらしいんすけどね。今それやったら犯罪じゃないすか」  自虐的に笑みすら浮かべながら、それに──、と紫乃は続ける。 「心から好きなのに、好きになってほしいのに、ね。相手の気持ちを尊重したくても、それすら叶わないんすよ。強制的に、陶酔させてしまうから」  相手の意思なんてお構いなく、問答無用で、薬漬けのように依存させて、落としてしまう。 ──だから先輩、今日のことは忘れてください、と。  そう言って、紫乃は俺に優しく微笑んだまま、自分の着ていたカーディガンを俺にかけて。  それから、背を向けて、俺から、離れていく。 「……っま、て! 行くな、紫乃……!」  とっさにベンチから足をおろす、と、そのまま膝から崩れ落ちた。

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