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超新星発見
開け放たれた窓から、風が吹き込んできた。
カーテンが柔らかく膨らみ、ひらりと翻って一瞬でしぼむ。と同時に風がこちらへ雪崩れこんできて、髪がなびいた。
反射的に髪を手で押さえる。首筋にある大きなほくろが見えてしまうからだ。
さらさら、と耳許で音がする。女子の長い黒髪がこういう音を立てるなら風情もあるが、いかんせん俺は男だ。面白くもなんともない。ただ情けないだけだ。
俺の髪は、これもまた母親に似てひどく細い直毛で、シャンプーのCMにでも出てきそうな、無駄につやつやさらさらした髪なのだ。
ほくろだけでなく、髪のことでも「女みてー」とからかわれたことがあるくらいだ。
男のくせに癖一つないドストレートヘアなんて格好がつかないから、パーマの一つでもかけたら少しはマシになるんじゃないかと思っているのだが、あいにくパーマやカラーは校則で禁止されていて、わざわざ違反して教師から目をつけられる勇気もない。
大学生になったら、とも思うが、そんなことをしたら知り合いから『大学デビュー』とかからかわれそうなので、結局やらずじまいになるような気もする。
そんなことをつらつらと考えていた、その時だった。
「――ふひぇっ!?」
俺の口から、自分のものとは思えない奇声が飛び出した。
一瞬後には「しまった」と青ざめたけれど、時すでに遅し。教室中の視線が俺のほうに集まっていた。
これまで存在を消して生きてきたのに、この一瞬で全てが水の泡だ。やってしまった、と後悔の嵐に襲われる。
でも、しかたがなかった。授業中に突然、後ろから襟足をつつかれたら、誰だって声を上げてしまうだろう。
俺はばっと後ろを振り向き、「な、な……っ」と言葉にならない呻き声を上げながら、犯人と思われるやつを見る。
するとそいつは、確信犯的な表情で、にたあと笑った。
「超新星発見」
後ろの席の真山は、わけのわからない発言とともに、またも、ぶすりと指先で俺の後ろ首をつついた。
どうやら、風に吹かれて舞い上がった髪の隙間から、襟足のほくろを見られてしまったらしい。
自分では見えないが、小学校の頃の同級生から『ここにもでっかいほくろあるぞ』と指摘されたことがあるのだ。
俺は反射的につつかれた部分を髪ごと手で押さえ、やつを睨みつける。
周りの席のやつらが、「えっ、何、けんか?」とざわざわしだした。
ああもう、最悪だ。
変な声を上げてしまって、しかも他人を睨むところも見られてしまって、今まで空気だったはずこ俺が、ものすごく目立ってしまっている。
最低最悪だ。これからまたあの頃みたいな、からかわれる日々がやってくるのか……。
「おいこら、深見!」
教壇から飛んできた先生の声に、俺は慌てて前に向き直った。
「なに後ろ向いてんだ。授業中だぞ!」
「あ……、すみません」
頭を下げながらも、なんで俺が怒られないといけないんだ、と苛立ちが込み上げてきた。
すると、後ろで「あっ、ごめんなさい」と声がした。思わずちらりと見ると、真山がへらへらと笑っている。
「先生、俺が深見に話しかけたんです」
「なんで授業中に話しかけるんだ」
「超新星を発見したからです!」
しーん、と教室が静まり返った。先生までぽかんとしている。
対応に困ったのか、先生は小さく「そうか、よかったな」とだけ言って、「ちゃんと集中しろよ」と前に向き直った。
生徒たちは、目配せをし合ったり、ひそひそ話をしながら苦笑している。その対象はどう見ても俺でなく、意味不明な返答をした真山で、俺はほっと安堵の息をついた。
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