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触らせて

「じゃあ、触っていい?」 じゃあ次いこうか、みたいな軽さで当たり前のように言われて、俺は思いきり顔をしかめた。 「いや、だからさっきからなんだよそれ、意味不明なんだけど」 たぶん後ろ首のほくろのことを言っているんだろう、と思うと怒りが湧き上がってくる。 からかってるつもりか? 馬鹿にするのもいいかげんにしてくれ。 俺だって好きでこんなにほくろだらけになったわけじゃないんだ。 「ていうか、触らせてとか、気持ち悪りいんだけど」 「でも、触りたいんだ」 「いや、だからさ、なんで?」 「触りたいから」 だめだ、会話が成立していない。 どうやら変人という噂は本当だったらしい。 行動だけじゃなく思考まで完全な変人だ。 「お前さあ、触りたいから触るって、それ、痴漢と一緒だろ」 呆れ返って、思わず諭すように言うと、真山はもっともらしい顔で「確かに」と頷いた。 「さっきお前、いきなり俺のこと触ったよな? ああいうの、めっちゃ失礼なんだからな? 分かってる?」 「うん、分かるけど、でも、気づいたら手が出ちゃってたんだ。いきなり首筋が見えたから興奮しちゃって。ごめん」 ぞぞっ、と背筋が寒くなった。 興奮って……マジで気持ち悪い。なんで男が男の首見て興奮するんだよ。まさかホモか? 別にホモだろうがカモだろうがなんでもいいが、いきなり触られるのだけは勘弁だ。 びっくりするし、不気味すぎる。 「悪かったと思ってるんなら、もうやるなよ」 分かった、ごめん、と返ってくると思っていた。 しかし、真山ははっきりと「やだ」と答えた。 「触りたい。お願い。だめ?」 捨てられた子犬みたいな瞳。 いやいや、そんな目したって俺は情にほだされたりしねえぞ。 「………い、い、わ、け、ねえだろが!」 俺は声を押し殺して凄んだ。 真山がしゅんとしたように肩を落とす。そのまま黙り込んだので、てっきり諦めてくれたのかと思ったら。 「じゃあ、深見が俺に触られてもいいって思ったら教えて」 ぱっと顔を上げて、こりゃ名案、とでも言いたげな朗らかな笑顔で真山は言った。 俺の頭の中でまた、ぶちっと何かが切れる音がした。 「一生ねーよっ!!」 休み時間の教室に、俺の初めての怒鳴り声が響いたのは言うまでもない。

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