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生返事
◇
その日から、真山は俺につきまとうようになった。
なんでも、「触ってもいいタイミングを逃したくないから」らしい。
今までずっと一人で行動してきたのに、当たり前のように後ろをついて回られるのは、どうにも変な感じがした。
「ねえねえ深見、知ってる?」
昼休みになると同時に、待ってましたとばかりに真山が俺の横に椅子を持ってきて勝手に座った。
俺はうんざりしながらも、経験上、どうせ何を言っても聞かないと分かっいるので、もう何も言わない。
さらに、人から声をかけられて無視をするほどの心の強さも持ち合わせていない俺は、真山が話しかけてくるたびにとりあえずは返事をしてしまう。かなり気のない返事ではあるが。
「今度、流星群が見えるんだよ」
「ふうん」
「来月の末なんだけどね。楽しみだなあ」
「へえ」
「ピークの頃は月齢が低いから、かなり好条件なんだ」
「ふうん……」
今日もいつものように適当に相づちを打っていたが、耳慣れない言葉に、思わず聞き返してしまった。
「ゲツレイって何?」
途端に、真山の顔が見るからに嬉しそうになる。
つきまとわれるようになってから知ったが(今までは興味がなかった)、こいつはどうも、感情がそのまま顔に出るたちらしい。
「やっと深見が興味もってくれた!」
「……いや、ただ知らない単語だから気になっただけだから」
「それでも嬉しいよ! 月齢ってのは、月の満ち欠けの状態の目安になる数字で、新月から何日経過したかを表してるんだ。新月が月齢0で、次の日が月齢1、その次の日が月齢2」
「へえ……」
これは長くなりそうだ、と数秒前の自分を恨みながら、また生返事で弁当の包みを開く。
真山は俺の気持ちを察するはずもなく、にこにこしながら話し続けている。
「満月は月齢15日前後で、30に近づいてくると、次の新月がもうすぐってことだね」
「ふうん……」
中学の理科で習った月の話をぼんやりと思い出しながら、俺は弁当の唐揚げを頬張った。
「で、月齢が低いってことはまだ月があんまり満ちてないってことだから、流星群を見るにはうってつけなんだよ。月明かりに邪魔されて流れ星を見逃すことはないってことだからね」
「へえ」
周りの生徒たちはそれぞれに仲のいいやつらとグループを作ってわいわい騒ぎながら弁当を食べている。
はじめの頃は突然一緒に昼食を食べ始めた俺たちのほうをちらちら見ていたものだが、最近は見慣れたのか特に誰も気にしていないようだ。
クラスの空気だったはずの俺が、今は当たり前のように真山と同じ机で弁当を広げている(勝手に広げられているだけだが)と思うと、なんだかむずがゆい感じがした。
学校で他人と口をきくのなんて数年ぶりで、どんな話をすればいいのか分からないと思っていたが、真山は俺の反応が薄くてもお構いなしで、嬉々として自分の好きな話をしてくるので、俺としては楽だった。
それに、会話のテンポがさほど俺の負担にならないのだ。だから思っていたほどストレスになることもなかった。居心地が悪くはない、というのが我ながら不思議だった。真山が変人だから、こちらとしても多少話し下手でも申し訳なくならない、というのもあるかもしれない。
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