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流れ星の速さ
「深見って、流れ星、見たことある?」
ふいに聞かれて、俺は卵焼きをくわえたまま「ん」と目を上げた。
「あー、一回だけな」
もぐもぐしながら答えて、ごくりと飲み込んだ。
真山がじっと見つめながら「いつ?」と重ねてくる。
「中学生の頃。修学旅行の夜、は……」
思わず口を滑らせてしまいそうになり、俺は一瞬口をつぐんでから、ふうっと息を吐き出して続けた。
「……寝れなくて、部屋から脱け出して何気なく窓の外見てたら、たまたま流れてきたんだ」
真山は何も気づかない様子で「へえ」と相づちを打つ。
「すごいね。たまたまなんて、なかなか見れないよね」
「まあ、そうかもな。見たことないやつも多そうだよな」
友達がいないので、確かめたことはないが。
「でもさ、俺思うんだけど」
流れ星の話をしていたら、昔から気になっていたことを唐突に思い出して、なんだか話したくなった。
友達はいないし、親に言うようなことでもないし、話す相手がいなかったが、星が好きな真山なら聞いてくれそうだと思ったのだ。
「流れ星に三回願いごとを唱えれば叶うとか言うけど、でもさ、流れ星なんていつ来るかも分かんないし、たとえ遭遇したとしても、見えるのなんて一瞬すぎて、願いごとなんか言うひまないよな」
「ああ、まあ、そうだね」
真山が頷き、それから熱心な口調で解説を始めた。
「そもそも流れ星ってね、大きさが0.1ミリから数センチくらいの小さい宇宙塵が、地球の大気とぶつかった時え光や熱を出す現象なんだけど、あ、ちなみに光っている場所は上空100キロメートルくらいね、で、いちばん速い流れ星は、あの『しし座流星群』なんだけど、なんと秒速70キロくらいで地球に向かってくるんだ。光ってる時間は、0.5秒くらいそれだとまあ、3回どころか1回でも願いごとを唱えるのは難しいね。0.5秒なんて、気づいたときには消えちゃってるもんね」
真山の勢いに俺はやや引き気味になりながらも、「だろ」と相づちを打ち、それから気を取り直して言った。
「つまり、流れ星に願いをかけるなんて不可能ってことだろ。てことは、『願いごとなんて絶対に叶わない』ってことだよな」
さらりと言ったつもりだったのに、妙に深刻なトーンになってしまった。
別に、だからってどうってことはない。いくら願ったって叶わないこともあるってことくらい、分かっている。
だから、あくまでもただの感想としてあっさり離すつもりだったのに、どこか不服そうな色が声に滲んでしまったような気がして、自分に嫌気が差した。
反応を窺うようにちらりと真山を見ると、なんとも言えない表情でじっと俺を見ていた。
「……なんだよ。俺、なんか間違ったこと言ったか? だって、一秒も光らないものに願いなんか言えるわけないだろ」
ぼそぼそと続けると、真山がふっと目を細めた。
あ、笑った、と思わず目を見張る。にやにやとかにたにたとか、そういう気味の悪い笑いは見たことがあったが、自然な微笑みは初めてだった。
なんだよこいつ、キモい星オタクと思ってたけど、意外とイケメンじゃん。
分厚い前髪に隠れたきりりとした眉も、切れ長の瞳も、まっすぐな鼻筋も、薄い唇も、実はかなり整った顔立ちだった。
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