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願いごと
「うーん、それはさあ……」
図らずも真山の顔に見入っていた俺は、彼の言葉にはっと我に返った。
「いつ流れるか分からない流れ星を見たときにも心に思ってるくらい、いつも頭から離れないくらいの強い願いごとなら、きっと叶うってことじゃないかな」
思いもかけない答えに、俺は目を丸くした。
言葉を失ってじっと見つめていると、真山は柔らかい表情でにこりと笑って続ける。
「それに、すごく珍しくはあるけど、スピードの遅い流れ星とか、地平線と平行に飛ぶ流れ星なんかだと、数秒間見えることもあるんだよ。だから、『願いは絶対に叶わない』なんてことはない」
「そう……なのか?」
なんだか言いくるめられているような気がしないでもない。
が、数秒間も流れる遅い星があるなんて知らなかったので、それなら短い願いなら三回くらい唱えられるかもしれない、と思ってしまったのだ。
「つまり、深見が願いごとを唱えるのを待ってくれる長さの流れ星にいつか出会えたら、ちゃんと深見の願いは叶うってことだよ」
「……別に、俺の願いごとの話はしてない。願いなんてないし。一般論だよ、一般論」
きまり悪くて、むっとした顔で言い返すと、真山はふふっと笑った。変人とは思えない、穏やかで静かな笑顔だった。
こいつって、こんな顔だったのか。こういうやつだったのか。
改めて見ると変な感じがする。
ここのところ嫌というほど見ていた顔なのに、なんだか初めて見るような気がして、まじまじと見つめてしまった。
見る目が変わる、というのはこういう感じだろうか。
「……お前、にたにた笑うのやめて、いつもその顔してればいいのに」
「え、俺、にたにたとかしてる?」
あれだけにやにやしといて自覚ないのかよ、と内心呆れた。
「してるよ。キモい笑い方」
「へえー、知らなかった」
真山は、キモいと言われたのに少しも気にするふうもなく、むしろ『新しい発見だ』と言わんばかりに頷いていた。
やっぱり変なやつ、と俺は思わず苦笑いを浮かべる。変すぎて、毒気を抜かれてしまった。
窓から風が吹き込んでくる。
あの日と同じように、髪を舞い上げた風が首のあたりを撫でていった。
いつものように反射的に押さえたが、真山に見つかってしまった。
抉るような眼差しだ。
「耳の下にもあるんだね、ほくろ」
今までなら、またほくろのからかわれた、と頭に来ていただろう。
でも、真山の言い方が、まるで新しい天体を発見した科学者みたいに嬉しそうだったので、怒る気も失せてしまった。
「あー、まあ……」
俺は左耳の下あたりをさすりながら答える。
また「触りたい」と言われそうな気がしたので、
「ほら、早く食わないと時間なくなるぞ」
と真山を急かして、自分も食事を再開した。
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