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更衣室
「……別に、普通だよ」
俺はそっけなく答えて、すたすたと足を早めた。
真山はまるで従者のように黙って後ろをついてくる。
体育は2クラス合同だ。隣の組のやつらも合流して、ぞろぞろとプールに向かっていく人波を無駄に足早に通り抜けていく。
「あー、あっちー。早くプール入りてえ」
「体育、水泳になってよかったよなー」
「ほんとほんと。この暑い中走るとか地獄だもんなー」
わくわくした様子で話す男子たちを、苛立ちにまかせて睨みつけたくなる。
やつらに罪はないが、プールに浮かれきっている姿を見ると、人の気も知らないで、という気持ちになってしまうのだ。
苛々しながら歩いていたが、更衣室が近づいてくるにつれて気が重くなってきた。
憂鬱が膨れ上がって俺を圧迫してくる。
とりあえずこのまま波に乗って更衣室に雪崩れ込んだらろくなことにならない、と集団から離れようとしたその時だった。
「なあなあ、深見って、泳ぐの得意?」
突然話しかけられて、驚いて横を見ると、クラスの男子だった。
ついさっきまで仲のいいやつらと「何メートル泳げるか」とかいう雑談をしているのが聞こえてきたが、まさか俺にまで聞いてくるとは思わなかった。
「あー、いや、得意ってほどじゃ……」
「そうなん? どれくらい泳げる?」
「え、まあ、溺れないくらいには?」
もそもそと答えると、なぜか「あはは!」と爆笑が返ってきた。
「なにその返し! 深見、おもしれーな」
すると周りにいたやつらも「なになに?」と首を突っ込んできて、気がついたら更衣室の前まで来てしまった。
去年までは、プールの授業のときはいちばん最後に更衣室に入り、人がいなくなってから着替えるようにして、プールサイドでもいちばん後ろの端っこで準備体操をして、すぐにプールに飛び込んでなるべく身体を見られないように工夫していた。
今年もその作戦で乗りきろうと思っていたのだが、会話に組み込まれてしまっているのに今さら離れるわけにもいかなくて、仕方なく一緒に中に入る。
真山も黙ってついて入ってくるのを横目で確認した。
「なんか最近、深見って話しやすくなったよな」
「あー、そうかな……」
「うんうん、もっと積極的に絡んでこーぜ」
「あー、うん……」
嫌だなんて言えるわけがない。
俺は曖昧な笑みを浮かべて曖昧な応対をする。
おかげで乗り気と思われたらしく、周囲にいたやつら全員が会話に参加してきて、何かと話しかけ始めた。
進学校なので、中学校までに学級委員長を何度も経験したというような、活発で正義感の強い見本みたいな優等生タイプが多い。
クラスで孤立している俺みたいな人間を世話しなければいけない、という使命感にみんなが燃えているようだった。
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