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フラッシュバック
でも、正直、今の場面ではありがた迷惑だ。
俺は一人になりたいのだ。だって、近くにこんなにわんさか人がいたら、絶対に身体を見られてしまうじゃないか。
作り笑いで受け答えをしながら頭を悩ませた結果、シャツは脱がずに、タオルを腰に巻きつけたままズボンとパンツを脱いで水着をはくことにした。
周りは皆さっさとシャツとズボンを脱ぎ捨てている。パンツまで恥ずかしげもなく下ろして、局部をさらけ出したまま話し込んでいるやつまでいて、呆れるやら羨ましいやら複雑な気持ちだった。
俺は身体のどの部分も見られるのが恥ずかしい。
頭から足までどこをとってもほくろだらけだし、男のくせに色が白すぎるし、いくら食べても鍛えても、太らないし筋肉もつかないので、本当にもやしみたいなのだ。黒い砂粒がたくさんついた生っ白いもやしだ。
「深見って勉強もできるよな。やっぱ塾とか行ってんの?」
そんなどうでもいいことを話しかけてきたやつにちらりと目を向けると、ほくろひとつない肌はよく日に焼けてきれいな小麦色をしていて、胸筋も腹筋もしっかりついている。
いいな、と思いながら身体の向きを変えて見られないようにしつつ、「行ってないよ」と答える。
すると、そいつはひょいっと顔を動かして覗き込んできた。
「てか深見、なんでそんな隠しながら着替えんの?」
それに周りも同調する。
「本当だ。女子じゃねーんだから」
「裸の付き合いだろー」
笑いながらみんなが俺の身体に目を向けてくる。笑顔の裏で、俺の身体がほくろだらけだと思っているに違いない。
『きったねー身体だな。虫がうじゃうじゃ這い回ってるみてー、気持ちわりー』
ふいに耳の奥に『あのとき』の声が甦ってきた。それから、俺を包み込む波のようなたくさんの嘲笑。
頭が真っ白になる。
もう忘れたと思っていた。ただの傷痕になったと思っていた。
でも、あの傷はまだ心に深く刻みつけられたまま、実は今でも生ぬるい血をどくどくと流し続けていたのだ。
そんなみっともなさすぎて認めたくない事実をつきつけられてしまった。
あ、これはだめだ。
もうだめだ。
気づいたときには目の前が暗くなって、急激な吐き気が込み上げてきた。
頭がぐらぐらして立っていられず、倒れるようにしゃがみこむ。
それでも体勢を保てなくて、そのまま床に倒れ込んだ。
「えっ、深見?」
「大丈夫か!?」
「どうした!?」
驚いたような声がたくさん降ってくる。でも、それもだんだん聞こえなくなってきた。
朦朧とする意識の中で、ふいにそっと肩に触れる手のひらを感じて、俺は薄く目を開けた。
そこには、俺を覗き込んでくる夜空みたいに深い瞳があった。
そこで俺の意識は途切れた。
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