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保健室

◇ 瞼に光を感じて、ふっと目が覚めた。 薄く目を開けると、そこには柔らかい明るさに満ちた白い世界があった。 しばらく呆然と四角い天井を見上げてから、ああ、ここは保健室か、と気づいた。 倒れて運ばれたのだろう。 また目を閉じる。全身が気だるくて、すぐには動けそうにもなかった。 目をつむったまま、やってしまった、と激しく後悔した。 この感覚、経験があるので分かる。貧血を起こしたのだ。 貧血で気を失って倒れるなんて、女子ならか弱くて可愛いかもしれないが、男が倒れるなんて恥ずかしすぎるし、周りに迷惑でしかない。 弱くて情けないやつとレッテルを貼られるのも嫌だった。 ふいに風を感じて、薄目を開けてそちらに顔を向けると、レースカーテンがゆらゆらと揺れていた。 涼しくて気持ちがいい。 ゆっくりと視線を動かすと、ベッドを取り囲む空色のカーテンもかすかに揺れている。 静かだな、と思ったとき、突然声が聞こえてきた。 「深見、起きた?」 驚いて目を向けると、真山がベッドの脇に座っていた。 「え……っ」 まさか人がいるとは思っていなかったので、びっくりしすぎて固まってしまう。 「具合はどう?」 真山が心配そうに眉根を寄せてたずねてくる。 この変人にもこんな顔ができたのか、とおかしくなって、俺は小さく吹き出した。 「ああ、いいよ」 「本当に? 意地張ってない?」 真山はやけに真剣な顔で、さらに言いつのる。俺はまた笑ってしまった。 「はは、なんだよそれ」 「だって、深見ってこういうとき平気じゃなくても平気って言いそうだから」 どきりとした。でも、顔には出さない。 「……そんなことねーよ。本当に大丈夫」 「そっか、よかった」 真山はやっと表情を緩めた。それきり口を閉ざし、微笑んだまま俺を見つめてくる。 もう慣れたはずのまっすぐすぎる視線が、なぜか今日はいたたまれない感じがして、思わず目を背ける。 窓の外には水色の空が広がっていて、室内は優しい空気に満ちていた。 やけに静かなので気になってちらりと視線を戻すと、静かな眼差しに包まれた。 その目を見て、気がついた。 気を失う寸前に見た、あの目。 そうか、あの深い夜空みたいな瞳は、真山の目だったのか。 「……真山がここまで運んでくれたのか?」 ぽつりとたずねると、真山は我に返ったように「あ、うん」と頷いた。

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