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モニターテスト

「あ~。弟マジかわいい…」 「だらしねぇ顔してないでこれ持ってけ!」 俺が待機場所でお客さんに出すカトラリーの準備をしながら今朝の海斗の事を思い出しにやにやしていると厨房から激が飛ぶ。 「だって俊くーん!!」 「だってじゃねー!!早く持っていけ!」 「なんだよぉ。俊くんお兄さんが居ないからって俺にあたるなよーだ!」 「なっ!!」 おれは注文品の皿を取ると、俊也に吐き捨ててフロアに出た。 俺の発言に驚いた顔をしていたが、俊也のお兄さんは商社に勤めるバリバリキャリアのサラリーマンなのだが今出張で海外に行っていて、ここしばらく会えて居ないので機嫌が悪いのだ。 そんな事で俺にあたられても知らないよ。 俺は皿を持って客席に急いだ。 「お待たせしました。本日の日替りランチです」 「あぁ…ありがとう」 俺が席に料理を持っていくと、お客さんは机の上に広げていた書類をまとめて机の端に寄せる。 表などが書かれた紙が多い。 「今日もお仕事ですか?大変ですね。お子さんはお留守番ですか?」 「君も世間は休みなのに働いてるじゃないか…偉いよ。あぁ…命は友達の家に預けて来たんだ」 俺が声をかけたのは、少し前からここの常連になった男の人で、よくこのカフェを仕事に使ってくれていてる。 打ち合わせか何かでスーツ姿の人と話している事が多い。 プライベートでも利用してくれているようで、自分のお子さんを連れてやって来るので店のスタッフ達の間では若パパというあだ名で知られている。 しかも、そのお子さんが男の子なのか女の子なのかよく分からない中性的な顔立ちをしているので店の中でも息子なのか娘なのか意見が別れるほど頻繁に来てくれる常連さんなのだ。 「お子さんはお父さんがお仕事じゃ寂しがりませんか?」 「あぁ…俺は自営業だから普段は時間が自由だし毎日一緒に遊んでるんですよ」 「そ、そうなんですか」 にっこりと爽やかに笑う男の人に、俺は珍しくどぎまぎとしてしまう。 若パパさんは不思議な色香があり、最近海斗にしか興味のない俺でも引き寄せられるような雰囲気があった。 「あ、後で店長にもお願いするんだけどモニターとか興味ない?」 「モニターですか?」 「そう!使った感想をこの紙に書いて、改善点とかがあったら教えてくれると参考になるんだ。考えておいて!」 「はぁ…」 俺は1枚の紙を渡されてそれを持って厨房の方へ歩き出す。 待機所でその内容を見てみると、項目に不自然な点が多い。 一番の項目が“挿入感”だったり、その後が項目が“締め付け感”だったりとこれは一体何のモニターの回答用紙なのだろうか。 「おいどうした?」 「あ、俊くん!さっきね、常連のお客さんにモニターしてみないかって誘われたんだけど…その回答用紙が怪しくってさぁ」 「はぁ?なんだそれ?」 厨房と待機場所を繋ぐ窓越しに常連客に渡された紙を渡すと、俊也はその紙をまじまじと見ている。 次第に表情が雲っていき、しまいには首まで傾げている始末だった。 「これ何のモニターだ?」 「んー。分かんない☆テヘッ」 「キモッ!でも、そっち系のグッツじゃ、ないか?」 「へー」 ふざけてみたところまたしても俊也にキモイと言われてしまった。 酷すぎる。 しかし、回答用紙の項目を見て答えを導きだした俊也に俺は感心してまじまじと返された紙をもう一度見た。 言われて見るとそれの様に見えてくるから不思議だ。 もしかして、俊也ってばお兄さんとアブノーマルなプレイでもしてるのかな。 だから分かったのかもしれない。 「あの人アダルトグッツのメーカーの人なのかな?」 「そうなんじゃないか?あのフルーツサラダと肉類抜きのサンドイッチの子供連れてくるお客さんだろ?」 「へー流石俊くん!お客さんのメニュー完璧だね!」 俊也はバイトでありながら厨房を任される位メニューを完璧に把握している。 フルーツサラダも最初はメニューに無かったのだが、お客さんに頼まれてデザート用のフルーツをドリンク用のフルーツビネガーで和えた物を出したのが切っ掛けだ。 そのメニューを頼んだのが、常連客のあの若パパさんだ。 若パパさんのお子さんは好き嫌いが多いらしく、かなり食べられない物があるらしかった。 娘さんが居るオーナーが見かねて声をかけて考案されたのが特別メニューだった。 今ではレギュラーメニューになるほど一定の注文がある。 「でも、無料でモニターできるとかいいじゃん」 「もー!俊くんは他人事だと思って!!」 俺は俊也に向かって頬を膨らませると、キメェと相変わらず辛辣な言葉を投げ掛けられるが、いつもの事なので全く気にしなかった。 「俊くんはお兄さんとよくオモチャで遊ぶかもしれないけど、俺は違うもん!」 「ちょっ!何言ってんだよ!!俺だって使わねぇよ!!」 お互いに墓穴を掘った事に気がつかないまま少しじゃれあっていると、お客さんから声がかかったので俺は急いでフロアに戻った。 + 「うーん。まんまと乗せられた感?」 「兄さんそれ何?」 俺は手に持っている紙袋を見て唸る。 バイトが終わって家に帰って来てから俺は海斗と夕飯を食べ、海斗が風呂に入っている間に昼に受け取った紙袋を鞄から取り出して眺めた。 昼に常連のお客さんにモニターを頼まれ、最初は断ろうと思っていた。 「全く初めての事で、この売上げ次第で俺と命の今後が左右されるんだ。だからいい商品にしたいんだよ…」 そう言われてしまえば俺も俊也もオーナーも断れるはずもなく、快くモニターを引き受けていた。 俊也もはじめはモニターをするとは言っていなかったのに、お昼の営業が終わった頃に若パパさん一人が残っていてオーナーと何か話していた。 オーナーの目にはうっすら涙が浮いていて、若パパさんの肩をポンポンと叩いていた。 オーナーは情に脆いところがあるからなぁなんて遠目で見て思っていたのに。 「お前ら悪いんだが、この人の話し聞いてやってくれないか?」 片付けが終わってから呼ばれ、オーナーにそう言われれば俺達に拒否権などなく、常連であるその男の人の話を聞くことになった。 「いやー。話しにくい話なんですが…」 そう言って切り出された話は、常連の若パパさんはアダルトグッツのショップを経営者しているらしく新しくショップオリジナルのレーベルを作るというものだった。 この企画がポシャると子供共々大変な事になると言われて断れる者が居るだろうか。 俺達は快く引き受けたは良いが、渡された物に大きくため息が出た。 「兄さんどうしたの?」 返事をしない俺を心配して海斗が顔を覗きこんでくる。 心配した顔が最高に俺のハートを鷲掴みにした。 「もー。海斗くん髪の毛ちゃんと拭かないと風邪ひいちゃうよ!」 「うわわ!」 毛先からぽたぽたと水滴が落ちているので俺は肩にかかってたタオルをかけて頭をくしゃくしゃと拭いてやる。 慌てた海斗に毒気を抜かれて俺は自然と笑顔になった。 「はい!もういいよ」 「ありがとう兄さん…」 ソファーに座っていた俺に体を屈めて頭を差し出している形の海斗の頭を軽く叩くと海斗はふにゃっとした顔でお礼を言ってくるので俺の胸は自然とキュンと高鳴る。 「に、兄さん明日午後からでしょ?あの…その…」 「いいよ?朝のじゃ足りないんでしょ?お風呂入ったらね?先にベット行ってて?」 もじもじとし始める海斗の耳元に立ち上がりながら声をかけると、こくこくと高速で首を縦に振っているので俺は小さくくすりと笑って風呂場へ向かった。 あのままだと首が取れちゃいそうだななんて思ってしまったけど、何をしても可愛い弟は最強だ。

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