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第2話

 松田、塚田と別れ、夕也は筒井と共にカフェを後にした。  夕也の約束の相手は筒井だ。今日はカーテンを買いに行くので、その荷物持ちをさせるために呼びつけたのだ。たとえ役割が荷物持ちだろうとも、夕也に誘われれば筒井は尻尾を振って付いてくる。 「おまえ、講義は?」  学校の塀沿いに続く一方通行の細い道を並んで歩きながら、夕也は頭一つ大きな筒井を見上げて訊ねた。  今はまだ一時だ。筒井が午後講義があるはずだからと、三時に約束をしたのに。  見上げられた男は、自主休講、と小さな声で答えた。 「はぁ?」  険を含ませた声で夕也が聞き返しても、筒井は悪びれた様子はない。 「だって、講義より夕也さんのが大事」  なんの衒いもなく、そんなことを言ってのける。にっこりと満面の笑み付きで。  夕也は慌てて俯いた。 「おまえ、単位落としてもしらねーぞ!」  怒ったように告げながら、だんだんと顔が熱くなってくる。  ――どうしよう、どうしよう。嬉しい。  かーっと耳まで朱に染め上げ、それを隣に立つ男に悟られまいと、夕也は下ばかり向いて歩く。  そんな夕也に気づいているのかいないのか……たぶん、いや、絶対に気づいてないだろう。筒井はにこにこ顔のまま、大丈夫、と自信満々に言った。 「出席は足りてるから」 「あ、そ……おまえ、飯は?」 「まだ」 「俺も。先になんか食う?」 「俺、所持金三桁しかないよ」 「んじゃマックな」 「はーい」  顔のほてりを治めようと努める夕也の隣で、ファーストフード店につくまでの間、筒井は終始話し続けていた。 ***  夕也がこのでっかいわんこを拾ったのは、半年前のことである。  二年に無事進級できて長い長い春休みを満喫し終えた四月。  まっさらなスーツに身を包んだ新入学生たちを眺めながら、夕也はげっそりとしていた。  入学式のこの日、いかに新入生を集められるか。どのサークルもひたすらそれに懸け、右を見ても左を見ても、悪徳商法のような客引きが繰り広げられている。  初な新入生は一方では持ち上げられて満更でもないように、またはあまりにもしつこい勧誘に辟易しながら、在学生に連れ去られていく。  学生が必ず通る正門前の大広場。そこは戦場と化していた。 「てめぇらぁー!一人ノルマ三人なんだから、さっさと捕まえてこんかー!」  真っ黄色のメガホンを持って叫ぶ三年生女子の由子(ゆうこ)は、夕也が所属するサークルの代表だ。  この新入生獲得戦争に、もちろん夕也の所属するサークルも参戦していた。いつもは緩く、好きな時にだけ集まればいいのだが、この日ばかりは全員強制参加であった。 「うぉーい、夕也、知ってるか?ノルマ未達成は一週間サンドイッチマンだぜ。しかも明日の新歓飲み代五千円」  塚田がにやにやとしながら夕也の肩に腕を回す。夕也は力いっぱいその腕を振り払った。 「言われなくても知ってますよ!」 「お前が一日言うこときくっていうなら三人回してやるぜ」 「いらん!」  すでに八人の新入生を騙し、もとい誘い集めてきている余裕満面の塚田に背を向け、夕也は人の波に飛び込んだ。テニスサークルなんて放っておいても人が集まりそうなのに、わざわざそんなノルマをつけなくても、と未だ一人も新入生を連れてきていない身としては泣きたくなった。  勧誘をさぼっているわけではない。だが、新入生を見つけ「テニスとか、興味ないかな?」と声をかけたが最後、「いやそれよりもバスケでしょう!」「ううん、今の時代、やっぱりバンドだよね!」「スノボできるともてるよ!」などなど。周りからハイエナのように湧いてくる他のサークルの人に奪われていってしまうというのがオチだった。夕也は圧し負けてしまうのだ。  あまつさえ、新一年に間違われ、よそに連行されそうになる始末だった。  

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