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【4】「死に損ない」

「どうやら頭の螺子が緩んでいるようだな。早く締めろ。」 「最高。君みたいな最高に面白い子初めてだね。うん、君の顔が不 細工なら君が描いている誘拐犯と同じようにまぁ、暴力も振るうか もしれないけど、ははは。」 「お前が暴力?どうやら螺子が緩んでいるのではなく、どこかに落 としているようだ。5分以内に探して拾え。」 「その見た目でその性格なんて反則だね。ギャップ萌え最高。」 人を見かけで判断してはいけないとは言うが。それでも喋り方、仕 草一つ一つをとっても無骨さはなく友好的で洗練されている。 男の容姿は物腰同様に優し気で、暴力などと言う野蛮さとは無縁だ 。 長い指の先、淡く色づいている爪の形も整っている。 この手で拳を作り、殴ると言うのか。 それこそ、面白くもない冗談だ。 「随分と綺麗な手をしている。その手で人を殴れるのか?現実離れ した冗談は笑いを誘わないぞ。」 花束が似合う可憐な令嬢が、無骨なバットを手にするような違和感さえ覚える。 あまりにも不釣り合いだ。 挑発的に笑えば男は歌う様に「錦君」と囁く。 「暴力はね、錦君。 暴力にちゃんと怖がってくれる相手じゃないと振るうだけ時間と労力の無駄だ。 プライドの高い人間は屈辱に弱く痛みには強いって相場は決まってるの。」 痛みに敗北するなどそんな無様な真似プライドが許さない。 だからどんな苦痛にも歯を食いしばる事が出来るが屈辱はプライドが高ければ高いほ ど耐えがたいものなのだと笑う。 「一理あるが、俺には何方も通用しない。」 お前の理屈は俺には当てはまらない。 と心の中で付け加える。 客観的に己を見て自尊心は低い方だと自覚している。 存在価値と言う後ろ盾のない自尊心は存在しない。 錦を作るのは7歳の誕生日まで――厳密には生死を彷徨った6歳というべきか――に注がれた両親の愛情だ。 その記憶が今も錦を生かしている。 「本当に?」 ――教えてやるつもりは無い。 しかし。 錦はそこでふと考える。 『朝比奈』の子供でありながら生きていても祝福されない出来損ない等 男には到底理解できないだろう。 朝比奈と言う付加価値もない、さらには親にとって宝であるはずの子供としての価値もない。 愛情を受けて生きていた世界が一瞬で逆転した。 死に損ない。 それが錦に対する正しい評価だ。

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