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【6】「単純明快な答えだ」
俺には傷付いたと思う程の、価値はない。
傷付ける言葉さえ、素通りする。
心無い言葉を投げかけられたとしても――下劣な言葉なら不快に感ずることは有れど――価値がないのに傷付く必要が何処にある。
「怖いものなど何一つない。」
自己憐憫を感じる程自分が大事だとも思わない。
大事なのは、彼らの子供である朝比奈 錦だ。
「君自身が強いから傷付かない?」
朝比奈と言う付加価値のないただの錦に価値などない。
単純明快な答えだ。
「そうだ。」
答えには嘘偽りも迷いさえなかった。
それなのに。
「震えながら言う台詞じゃないね。」
言葉は全て本心なのに意思に反して体は小さく震えていた。
規則正しく脈打ち乱れる事のない心臓をそっと掌が覆う。
そして、腹の上で握られた手へ重なる。頑なに丸め込まれた指は小刻みに震えていた。
「君は確かに怯えていない。全て本心だし嘘もついていないだろう。でも、本能では違う。本当は怖いと感じている。」
何てことだ。
体が怯えを露わにしているのを見て、酷く失望した。
裏切られた気分だ。
「―――可哀想に。」
サイズの合わない借り物のシャツが乱れ露わになった大腿をひと撫でし手は膝へと向かう。
「お前に同情されるいわれはない。第一 可哀想なのはこんな事をしているお前の脳味噌だ。」
男は目を伏せ膝を包む手元を見る。
掌に震えが伝わっているのだ。 僅かな振動を抑える様に手に力を籠める。
「足を開いた方が良いのか。頭を下げるなら協力してやっても良い。」
幼い体でもきっと暴こうと思えば暴くことが出来る。
―――そこまでして何かしたい体ではないだろうし、もちろん男が実行するとは思えない。
するなら、とっくにしているだろう。
ただ、男の気まぐれの可能性も高い。
始めは本気でこんな体に何かするつもりかと男の頭を疑ったものだが、 こうして組み敷かれても、男からは興奮の色も好奇も劣情さえ香らず、 奪い取る気配も踏み躙る明確な意思も感じられない。
何方かと言えば顔色を見るための実験をしているようだ。
きっと本気ではないのだ。
だが、気分次第では結果が変わるだろう 曖昧な境界上に立って居た。
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