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【3】「恋人繋ぎだけどそれが何か」
辿り着いたショッピングモールの駐車場は満車で、以前と同じコインパーキングに駐車した。
風除室の掲示板にあった犬の里親募集の案内は、「里親見つかりました。有難うございます。」という感謝状に変わり 今度は猫の里親募集の案内が新たに掲示されている。
指名手配中の犯罪者の似顔絵をみて一言
「お前の似顔絵が此処に張り出されなければ良いな。」
と意地悪く言えば男は笑顔で
「僕の似顔絵何か貼り出したら彼氏募集中の女の子が殺到して困るね。あっはっは。」
等と見当はずれの答えを返してきた。
やはりこの男は馬鹿だ。
近隣に買い物できるような店がないから予想はしていたが今日もやはり人が多い。
と言うより、以前来た時よりも多い。
貼り出されていたチラシには15時より特売セールを始めると案内が有ったから、恐らく何時も以上の集客数なのだろう。
錦たちがいるショッピングモール一階は食品売り場になっているため、カートを押しながら移動をする客が多い。
おまけに子供が走り回っているので、危なくて仕方がない。
時折すれ違う時はぶつからない様に気を付けなくてはならない。
「見ろ。人がゴミのようだ。」
「ぶっはぁあっ!!」
昨日男と見たアニメキャラクターの台詞が思わず口をつく。
呟いたつもりなのだが、男にも聞こえていたようだ。
冗談を言ったつもりは無いのだが、男は吹き出し涙まで浮かべ笑いだす。
「真顔で面白い事ばかり言うんだから。ははは。」
一度笑い出すと止めることが出来ないのだろうか。
いまだ笑いを引きずっている。
「おい、目立つからそのアホ面とアホの様に笑うのは止せ。」
男は常に機嫌よく笑っている印象が強いので、錦は別段気にはしないが店の中に入ってもこの調子だと目立ってしまう。
男は見目も良いのでただでさえ周囲の視線を集めてしまうと言うのに。
「あ、錦君別館行くからこっちだよ。」
手を取られ軽く引かれる。
握りこんでいた男の手が緩まりするりと長い指が錦の指の間に滑り込む。
気付けば互いの掌を合わせ、五指を絡め合う様にして手を握りこまれていた。
「…何だこの手の繋ぎ方。何時もと違うんだが、違和感が有る。おい、何なんだこの繋ぎ方は。」
合わせた手を少し持ち上げて男を見上げると、彼は目を丸くして小首を傾げる。
「恋人繋ぎだけどそれが何か。」
何かではない。
何を言っているんだこの男は。
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