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【4】「何だこの男は腹が立つ」

「今すぐ解け変態。」 「あぁ、身長差あるから歩きにくい?君小さいものね。」 同世代と比べ身長が低いと言うことはない。 男と比べれば確かに小さいかもしれないが、手を繋ぐことに負担を感じるような体格差ではない。 「お子様な錦君には早いか。」 きたな。 男特有の詭弁だ。 馬鹿め。 誰がお前の挑発と虚偽論に引っかかるものか。 錦はふんと鼻で笑う。 「論点をずらすな。俺の社会的立場及び年齢身長体形は無関係だ。」 「御免ねお兄さんが悪かったよ。」 そう言いながらも男は手を解く気配はない。 それどころか男の指が皮膚を擦り付ける様に撫でてくるではないか。 「おい、指がくすぐったいんだが。」 彼の親指が錦の指の側面へ小さく円を描く。 僅かに眉を顰め手元をみて、そろそろと男を見上げる。 彼は、 付け根から関節までを撫であげ 絡めとった長い指が手の甲の骨をなぞる様にして擽る。 「お兄さん別に意識してこんな繋ぎ方した訳じゃないんだけどね。」 「先ほど…恋人繋ぎって言ったが?わざとじゃないのか。」 意識して指を絡めたと言うのが恥ずかしいので、 わざと、と言っては見た物の違和感が有る。 ――それより、恋人繋など口にするのも恥ずかしいのだが…。 「手の繋ぎ方が世間一般で「恋人繋ぎ」と言われているので、君の質問にそう答えただけだ。 意識して繋いだわけじゃぁない。 よって、繋ぎ方の名称と僕の行動原理は混同できない別問題となる。」 平手打ちしたい衝動を抑える。 何だこの男は腹が立つ。 「屁理屈ばかり。もう良い。手を離せ。」 「錦君が恥じらい過ぎて心臓発作起こして倒れたらいけないから手を解いてあげよう。いやぁ、そこまで君が僕を意識してくれてるとは。お兄さんびっくり。手を繋いだだけでこの反応は予想外過ぎて久々にときめいた。 本当に君は可愛いねぇ。 顔も可愛いけど性格も可愛い。 おっ、その反抗的な目。ドキドキしてしまう。」 馬鹿にしやがって。 と内心思ったが、こういうふざけた性格なのだから怒るのも馬鹿らしい。 分かってはいるが腹が立つ。 「おい変態。勘違いするな。 お前なんか微塵も意識していない。 別に指が絡もうと時折お前が手の甲を撫でようと俺は平気だ。」 男は「おっ?」と言いたげな意外な表情を見せた。 間抜け面に少しだけ溜飲が下がる。 それが更なる言葉を誘発させるポーズだと錦自身は気が付けない。 「たかが手を繋ぐ程度で、恥じらいなど感じるものか。俺よりも年上だからって馬鹿にするな。」 すると、待ってましたと言わんばかりの満面の笑みを浮かべた。 「じゃぁ、このままでも問題ないね。君が恥ずかしくて嫌だと思うなら 繋ぎなおそうと思っていたけど。問題ないならこのまま歩こうか。」 「!!!」 しまった。 と思ってももう遅い。 あっさりと挑発に乗り、詭弁に弄された。 どうも男が相手だと自分自身が馬鹿になってる気がする。 顔が紅潮するのが分かる。 舐める様に男の目が錦をすべり、柔らかに笑む。 全て、見透かしたうえで遊んでいるのだ。 涼し気な表情を見ていると、さらなる反抗心が湧く。 止せば良いのに、明らかに揚げ足を取られるであろう反発が零れる。 「俺の意志で繋ぎなおそうと思っていたと言うことは、 やはりこの手の繋ぎ方はわざとじゃないか。」 「意識せずにつないだけど、君が意識したことにより僕も意識してしまった。 だから「繋ぎなおす」と言ったんだけど、ところでこれはまだ続くの? じゃぁ、言うけど手を放すつもりは無いので諦めて。それにしても、君は爪の先まで綺麗だね。 細くて小さくて可愛い。」 そう言い男はきゅっと手を握りこむ。 ――どちらにせよ手を放すつもりは無いらしい。 錦の反抗も反論も無駄なだけなのだ。 「そうだ、別館にギャラリーが有るから絵葉書でも見ようか。」 男は案内所で簡易地図を見て鼻歌を歌いだす。 もうすでに錦の事など意識外のようだ。 しつこく揶揄って来ないのだから、錦としては都合が良いはずなのに何だかつまらない気持ちにもなった。 「錦君?どうしたの?ぼんやりして。喉乾いた?それとも疲れたのかな?」 「いや店内だから麦藁帽子脱いだ方が良いのか考えていた。」 などと思考とは無関係な言葉が口から出る。 たかが手を繋ぐだけなのに。 男は未だ錦が絡め合った指先を気にしているなどと夢にも思わないだろう。 意識しているのは錦の方だけなのだ。 ――あぁ、本当に嫌になる。 おのれ誘拐犯め。 覚えていろよ。 不発に終わるだろう仕返しを考えていると、今いる本館から別館行の通路へたどり着く。

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