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【4】「完全に手段と目的が逆転した」
「…おかしい…」
泣きそうな顔に男が慌て出す。
「え?ちょっと。」
「頭が痛いだけだ。」
言い訳じみた言葉だが、弱弱しく潤んだ視線を受け男はさらに焦る。
それを見て、「ざまあみろ」と少しだけ思ってしまった。
「大丈夫かい?アイスノン持ってくるから待ってて。」
「冷やす必要はない。」
「痛み止め持ってくる。」
「いらない。行くな。」
体を大きく傾ぎクッションに頭を埋める錦を心配そうな顔が覗き込む。
「――痛いので、頭撫でてくれ。」
「ん?」
「頭が痛いから撫でてくれ。」
額を男の手が撫でる。熱はないねと言う言葉に「うん」と返す。 術後の投薬の影響で発熱しにくいのだ。
「あまり酷いようだったら病院にいこう。」
「嫌だ。行かない。」
病院とは縁が切れない体だ。
もしかしたら、病院を中心に朝比奈が捜査依頼している可能性もある。
第一偽名を考えねばならない。保険証が無いから全額実費になる。
病院自体がどこにあるのか知らないが、こんな山の上にある別荘からでは移動にも時間がかかるだろう。
男の負担にはなりたくない。
「何時もみたいに…してほしい。」
小さく呟くと「先程は嫌がったのに、君は気まぐれだね。」 そう言いながらも、笑いながら男の長い指が髪を梳く。
目を瞑り暫く頬やこめかみ髪の毛を移動する指の感触を楽しんでいたら、すっと体温が遠のく。
とっさに離れ行く手を両手で掴んで、そのまま額に摺り寄せた。
「何処にも行くな側にいろ。」
「…錦君。」
「我儘だって呆れたならこのまま俺の手を払えば良い。」
男の手で目元を隠し詰まりそうになる言葉を何とか押し出した。
目元を隠したままもう片方の手が、錦の頬を撫で耳へたどり着き髪を優しく梳く。
「こんな可愛いことされて振り払う何て出来るわけないだろ。」
この男についてきて共に過ごして、完全に手段と目的が逆転した。
本末転倒だ。
想定外だった。
この男は手段にすぎなかったのに。
頭を抱えた。
それでも男を引き留めた手で、男を拒むなど出来なかった。
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