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【2】「考えるより先に口が動いていた」

本日は30度を超す真夏日だった。 日差しが強いので室外で過ごすなら、熱中症に気を付けなくてはならないのだが常に潮風が吹き涼しいので水分補給と熱中症対策を失念していた。 せめて帽子位は被るべきだった。 「体は正直だね錦君。あ、エッチな意味じゃないよ。」 尾を引く怠さでに負けてソファに伸びたまま、男を見れば ダイニングキッチンのカウンターにウバとアッサムの紅茶缶を並べどちらにするか悩んでいる。 「馬鹿。変態。」 男は紅茶缶を両手で持ち上げて「君は辛そうな顔をしても美人さんだね」などと的外れな返事をする。 人が苦しんでいる時に悪魔かこの男。 迷惑をかけたと反省はしている。 とはいえ、他人に心配されても不快なだけだ。 間抜けな感想を言われても腹が立つ。 今更だがこんな弱ったところを見られたのが何よりも嫌だった。 要するに、いま錦が感じている「腹が立つ」とは半ば八つ当たりだ。 此の理不尽な八つ当たりは、男に対する甘えなのだろう。 「天候に腹を立てても仕方がないと分かっているが、太陽が出ているくせに雨が降るのは如何いうことだ。 晴れなのか雨なのか、どちらに分類される。」 思考が思わず口から洩れる。 独り言だったが、律儀な事に男がそれに反応をした。 「どこかで降ってた雨が風で飛ばされてきた、又は雨雲から地上に水滴が落ちる前に雲自身が消えちゃったんだよ。」 「飛ばされてきたのなら仕方がないが雨を降らせておきながらその雨雲は逃げたと言うことか。」 怠くて思考回路が揺らぐ。 雨も嫌いだが夏も嫌いだ。 どんなに気を付けていても毎年体調不良で悩まされる。 「責任はどの雲が負うんだ。連帯責任なのか。」 もはや何を言ってるのか分からない、考えるより先に口が動いていた。 そんな姿に「君の真面目さは揶揄い甲斐がある」と男が笑う。 失礼だと冷やかに見返すことも、噛みつく気力さえない。 「あ、また降ってきた。狐の嫁入りってやつだね。響きとしては狐日和とわたくし雨の方が好きだなー」 今度はティーセットを選びながら男は窓を見る。 「…これは晴れなのか雨なのか…何方に分類されると思う?」 「君が好きな方に分類すれば良いよ。さて、おやつの時間になりました。一緒にケーキを食べよう。」 「俺はそんな時間設けていない。」 甘いものは嫌いだ。

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