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【5】「男が期待するであろう反応は恐らくできない」
「話を戻そう。甘さを控えたケーキだったら食べる事が出来るかなって思ったんだ。ちょっと挑戦してみようよ。」
「最も疑問に思うことだが、それは必要な事なのか。」
男の言葉に対する拒絶ではなく純粋な疑問だ。
甘味とは娯楽の一種であり、生きていく上で必要な食には含まれない。
好んで食べたいと思わない。
「必須ではないけど別に不要な事でもないよ。 僕の友達も甘いの嫌いな人いるけど、ケーキは食べれる奴いたけどなぁ。 そう言えば刺身は嫌いだけど寿司は食べれる人いるよね。」
7歳で移植手術を受けた後は、刺身も寿司も禁止されているので口にした事がない。
手術をする以前に何度か食した事はあるが、どんな味だったか思い出せない。
不味くはなかったが、記憶に残る程美味かったかと言われれば良く分からない。
いずれも味覚が育つ以前の話だ。
「好きな食べ物とかないの?」
「好物か…。特に思い浮かばない。旨いか不味いかは分かるので問題ないと思う。」
元々食が細いうえ第一好物が何かを認識する前に食事制限がかけられたのだ。
美食等と娯楽を求める以前に限られた味覚の中で成長した為、特別「好物」と主張できる程の物はないし、食への執着も無い。
現在は多量摂取しなければ口にしても良い物も増え、術後と比べ制限はそれなりに緩くはなった。
(それでも制限されている食品数が大幅に減るわけではない。 食べてはいけないものが少しだけなら食べても良くなった程度だ。)
好き嫌いは何かといわれると特にないと答えるが、それは錦の食生活内で出てくる答えだ。
外食自体しないし自宅では、薄味の料理しか食べない。
選択が狭い味覚の範囲内で答えを出しているが、実際は濃い味付けの物、甘い物、苦い物辛い物脂っぽい物酸味の強い物は食べられないだろう。
自分自身の事なのに予想になるものおかしな話だが、恐らく好きか嫌いか何方か選択しろと言われば後者だと答える。
食べたくないもの(見た目がこってりとしたものは、見るだけで腹が膨れる) は山ほど有っても食べたいものは特にない。
良く「美味しい物を食べれなくて可哀想」などと勘違いされるが目の前で誰が何を食べていようと大して気にならないし、うらやましいと感じたことも無い。
裏を返せば、食に関する歓びや楽しみを享受する事はないともいえる。
だから。
錦には男が期待するであろう反応は恐らくできない。
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