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【8】「あらゆる感情が綯い交ぜになる」
「…浮島が良い。」
その言葉に、男がさらに嬉しそう頷く。
プレゼントをもらったような子供のようだ。
「任せて二層と言わず三層の浮島作るよ。蒸しカステラ好きなの? 和菓子派なのかな?小男鹿とか好き?僕は越の雪とか好き。 繊細で白くて綺麗で、錦君がお菓子になったら多分越の雪だね。」
別に好きではないが偶に食べたくなる。
歓喜するその顔に錦はますます訳が分からなくなる。
「他にはどういうお菓子が好きなの?」
「基本菓子は好まないが和三盆と蒸し菓子は極偶に食べる。」
食欲がない時に食べている。
「もち菓子は?」
「余り好きじゃない。喉に詰まりそうになるのと、あの食感が苦手だ。あと胃が凭れる。」
「ほうほう。じゃぁ、白玉も?」
「茹でたあと素手で触れていなければ食べれる。」
「OKOK。わらび餅は?」
「あまり好きじゃない。」
「良い情報を得たぜ!」
何だこの男は。
驚きと同時に、 嬉しい様な恥ずかしい様な、泣きたいようなあらゆる感情が綯い交ぜになる。
男の側にいると、偶にそう言った理解不能な感情が胸の奥で揺らめく。
どう対処して良いのか、錦は分からなくなる。
この男は錦にとっての初めてを山のように経験させるのだ。
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