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【6】「有り得ない」
「僕は血統書付ではないからね。素性は知れないかな。」
「そういう意味じゃない。今まで何をしていたんだ?」
朝比奈は共喰いの一族だ。
目的の為なら手段を選ばない朝比奈の流儀は、対象が子供であっても容赦はない。
将来的に敵となり得る15歳の少年の存在を知れば、――例えそれが何の力のない唯の少年で有ろうとも ――他の一族関係者が何をするか分からない。
それが、父の本音だろう。
「隠れてお勉強だよ。僕には一族の名に釣り合う程の教養もマナーも無かったからね。 朝比奈家に嫁ぐための花嫁修業みたいなものさ。 3年ほどは教育係や上の連中に絞られて大変だった。朝比奈のご当主や爺様等は不感症だね。 冗談が通じないときた。」
「面会したのか?」
「ん?うん。付き人の一人が教育係を申し出てくれたから、自然とご当主とも会う機会が有ってね。」
「それは、ご当主が手元に置いている様なものじゃないか…。」
――「血統書付ではない。一族の名に釣り合う教養も無い」という立場が本当ならば、公の場に出られない家柄と言える。
外部の人間を招き入れるような開放的な家柄ではない。
純血主義の当主を柱に回るこの一族が、何故目の前の彼をその歯車に組み込もうとしたのか。
当主に面会しそのうえ側近が教育係を申し出て「3年間絞られる」など異例だ。
一族内で本家筋の父でさえ面会までの手続きがあり気軽に訪ねる事など出来ないのに。
第一、次期総裁の継承争いに関わるであろう人間を優遇するなど考えられない。
この男がすでに次期総裁に選ばれていたとするなら、筋が通る。
もっとも道理な話だ。
だが返って、彼が此処に居る事がありえない状況になる。
親が亡くなり天涯孤独となった時点で一族内でも大きく取り上げられる。
第一この家ではなく現総裁または当主のところに引き取られているはずだ。
時期総裁に選ばれていることはあり得ない。
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