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【9】「君を苦しめるだけ」
「一つだけ教えて欲しい。答えたくないなら答えなくても良い。」
どうしても確かめたいことが有った。
「正直に言えば俺は義兄の存在が幻の様なものだと感じていた。 でもお前は俺の事を知っていた。その、義弟の存在に抵抗は無かったのか?」
「ないよ。」
即答した海輝は、錦の目をじっと見つめる。
「選択肢がないからか?」
「何を言うんだ錦君。僕にも養子縁組の話を断る権利はある。 未成年後見人を選任する事だって可能だ。 自分の意志で、この家に来たんだよ。 要するに利害の一致さ。」
「…そう、なのか。」
利害の一致とは、朝比奈であっても朝比奈と扱われない家系の生まれが、権力を手に入れる機会に恵まれた。
そう言うことなのだろうか。
「データ上の君を何度も頭で再生していたけど、本物の方がずっと良いね。」
頬を撫で確かめる様に輪郭をなぞる。
「引き取られた理由を考えれば、君が僕に心許してくれるかは自信は無かった。 君の性格上僕を邪険にはしないだろうけど、君自身僕を必要とはしないだろう。 それどころか僕の存在は君を苦しめるだけだ。 そう思うと、君に会いたいのに会うのが少し怖かった。」
居場所何てあってない様なものだったが、それでも唯一の帰る場所だった。
その様な中で義兄の存在は錦にとって脅威だった。
居場所を奪われていく、そう感じていた。
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