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【10】「寧ろ君が目的だったんだ」
「――理解できない。たかだか書類上で知った人物にそこまで興味を示して、心を砕くなんて信じられない。 まして、会った事も無いのに家族になるなんて簡単に受け入れられるものなのか?」
彼自身の意志でないならば「受け入れるしか選択肢はない」訳だが、彼自身が望んでこの家に来たのなら義弟の存在は余計な部品だろう。
海輝の顔を窺うと彼は、ふぅとため息をつく。
「君の言う事は少し違う。目的が逆。」
「逆?」
「寧ろ君が目的だったんだ。 君と家族になりたくて承諾したんだよ。 養子縁組の結果君と家族になる事を受け入れたと言うより、 君と家族になる目的で養子縁組を受け入れたって言う方が正しい。 利害の一致とはそういうこと。 養子縁組が決まる前に君の事を調べた。」
「…益々分からない。」
「寂しかったんだ。置き去りにされてどうしようもなく孤独だった。 だから、君の経歴を見てもしかしたら僕を受け入れてくれると思ったんだ。」
経歴を知られている。
羞恥に眩暈がする。
あっけなく見放され、親にさえ必要とされず、愛しても返される事のない姿を好意を持つ相手に知られるのは、
裸体を見られるよりも恥ずかしかった。
しかし、全て真実なのだ。
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