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【13】「君の関心を得るためなら」

「でも君は同情なんてしてはいけない人だ。 君の感情は君だけのもので、誰かが気安く一方的に共感して同調した気になって憐れむなんて有ってはならない。 君はどんなにボロボロにされても、たった一人ここまで歩いて来た人間だ。 大の大人でも孤独の中で君のように生きられるわけじゃない。 そんな君に同情するなんて思い上がりも甚だしい。 君は誰かに哀れみを受けて同情されるような人間じゃないだろ?」 熱のこもった視線で、錦の頬を包み目を覗き込む。 「僕は君に敬意を評する。だから僕が君に同情するなんてありえない。 逆に君が僕を憐れむと思ったんだよ。」 「自ら憐れみを望んで慈悲を乞う人間は愚かだ。」 「君は呆れるだろうけど関心を引く為なら、何でも良かったのさ。」 「――…、そこまでする必要なんてあるのか。」 眉を顰める錦に「君の関心を得るためなら」と悪びれる風も無く言葉を続ける。 「経歴からみた君の思考だけど、君はマゾヒストかと思う程に自分に厳格で、甘えを許していない。そしてご両親の命には絶対だ。一族の重みを理解している君なら、両親が決めた義兄を拒むことはしないだろう。 ただ、君が心を許してくれるには時間がいるとは思っていた。夏休みあんな風に過ごしたけど ――君と会う前からずっと想像していたんだ。 君を誰よりも大事にすれば、僕を慕ってくれるのではないかと。 きっと、すごく可愛いだろうなって毎晩夢見てた。」 信じられなかった。 「君と過ごす時間をずっと想像していた。3年間頑張れたのは、 君と言う存在のお陰だ。」 家族を失った彼が、失意のどん底から這い上がるのに必要な物は失ったものを埋め合わせることだったのだ。 それは彼にとっては家族意外では有り得なかった。 喪失した肉親の情と呪縛ともいえる愛による苦しみからは、同じ情をもってでしか解放は出来ない。 孤独な彼は唯その隙間を埋める相手を錦に求めたのだ。

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