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【16】「全部僕が間引いてあげる」

「君が僕の義弟になると思うと嬉しくてたまらなかった。 君と一緒に居る事が出来る。写真やデータではない。紙面に書かれた君じゃない。 生身の君が、触れれば温かい君が僕の側にいる。ずっと会いたかった君と。 ねぇ想像してご覧。やっとたどり着けた瞬間がどれ程幸福な事か分かる?」 ―――こんな風に知らぬところで焦がれ思われていたのか。 そう思うと、たまらない気持ちになった。 目の前の男が酷く愛おしく感じたのだ。 薄く唇を開き潤んだ瞳で錦は海輝を見返した。 「君が可愛くて仕方がない。僕の側で安心したように眠る君を見てると、君を苦しめたこの家が憎くて仕方がなかった。」 「お前は朝比奈の為にここにいるんだ。 俺だけの為だなんて駄目だ。お前の将来をダメにする。」 錦はすでにこの家の為に戦う権利さえない。 歯車から外れたのだ。 「君が戦えないと言うなら僕が君の為に戦おう。 総裁候補も幹部も君が欲しい椅子をあげる。」 君を冷遇した人間も君を侮辱した人間も君を切り捨てようとした人間も全部僕が間引いてあげる。 僕はそのためにここまで来たの。 柔らかく微笑みながら錦を抱き寄せ耳に吹き込む。 ぞわりと肌があわたつ。 穏やかな表情からは何を考えているのか、胸中を推し量ることが出来ない。

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