84 / 90

【17】「欲するのは、罪だ」

「その代り、君の願いを叶えるから君は僕だけの為に存在してくれる?」 溶けそうなほど甘く響く声。 悪魔じみた囁きだ。 「家柄も血も関係ない。あるのは能力だけだ。 君が欲するものを何でも手に入れてあげる。僕なら、出来る。だから」 「海輝、真価を見誤るな。」 冷やかに鋭くくぎを刺す。 彼は、何を続けようとしたのだろう。 不穏な気配を察し、それ以上の言葉を封じる。 「利害が一致してここに居るなら、勘違いをするな。 朝比奈を害するのは許されない。俺も、お前もこの家の歯車だ。 父も母も、祖父たちも、 その先に続く物皆がそうなんだ。」 そっと手を外して、大きな半月を見つめる。 濃い茶色の瞳は微笑んだままだ。 「君はやっぱり 一筋縄じゃぁいかないね。」 誘惑はしないでくれ。 お前に誘われたら頷きそうになる。 自分の意志を貫く自信がない。 「君は欲しくないの?」 欲するのは、罪だ。 差し出すものがないのに、何を手に入れられると言うのだろう。 「君は欲しい物を手に入れる権利があるんだよ。僕が言うんだから間違いない」 「俺にはそこまでの価値は無い。お前がそこまで尽くす必要はない。 時間の無駄だ。やるべきことをやれ。お前にとって価値があるのはこの家だ。 この家が、お前をこれから生かすんだ。だからお前はこの家の為に…」 この家に縛りつけるのか? 錦の代わりに盤上に乗せられた彼を。 唯の駒として、朝比奈の血だけを重視してその価値を測ると言うのか。 そこで、初めて迷いが生じる。

ともだちにシェアしよう!