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【17】「欲するのは、罪だ」
「その代り、君の願いを叶えるから君は僕だけの為に存在してくれる?」
溶けそうなほど甘く響く声。
悪魔じみた囁きだ。
「家柄も血も関係ない。あるのは能力だけだ。 君が欲するものを何でも手に入れてあげる。僕なら、出来る。だから」
「海輝、真価を見誤るな。」
冷やかに鋭くくぎを刺す。
彼は、何を続けようとしたのだろう。
不穏な気配を察し、それ以上の言葉を封じる。
「利害が一致してここに居るなら、勘違いをするな。 朝比奈を害するのは許されない。俺も、お前もこの家の歯車だ。 父も母も、祖父たちも、 その先に続く物皆がそうなんだ。」
そっと手を外して、大きな半月を見つめる。
濃い茶色の瞳は微笑んだままだ。
「君はやっぱり 一筋縄じゃぁいかないね。」
誘惑はしないでくれ。
お前に誘われたら頷きそうになる。
自分の意志を貫く自信がない。
「君は欲しくないの?」
欲するのは、罪だ。
差し出すものがないのに、何を手に入れられると言うのだろう。
「君は欲しい物を手に入れる権利があるんだよ。僕が言うんだから間違いない」
「俺にはそこまでの価値は無い。お前がそこまで尽くす必要はない。 時間の無駄だ。やるべきことをやれ。お前にとって価値があるのはこの家だ。 この家が、お前をこれから生かすんだ。だからお前はこの家の為に…」
この家に縛りつけるのか?
錦の代わりに盤上に乗せられた彼を。
唯の駒として、朝比奈の血だけを重視してその価値を測ると言うのか。
そこで、初めて迷いが生じる。
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