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アオキ6
そのままコリコリと揉みしだかれると、得体の知れない戦慄が背筋を駆け抜けていく。
楼主の身体の下敷きになっているアオキのモノが硬さを増した。
「身体の反応は悪くねぇが表情が全然なってねぇ、もっとエロい顔できねぇのか」
眉間に皺を寄せて凄まれて、アオキは無理だというように首を振った。
「なら無理矢理引摺りだしてやる」
着物の裾をたくしあげられて、楼主のごつごつした手が股間に伸びる。
こんな場所でまさか楼主と事に及ぶなんて思っていなたかったアオキはすっかり狼狽していた。
楼主の手管は巧みで、探りながらも確実にアオキを硬く覆っている殻を引き剥がしにかかっている。
怖い……
客を相手にしている時に襲われるあの感覚、自分が自分でなくなるような何ともいえない恐怖がアオキを襲いはじめていた。
背中にあたる毛並みのいい絨毯をぎゅっと握り締めていると、突然扉をノックする音が響く。
アオキは身体をビクリとさせたが、楼主はやはり顔色一つ変えない。
「誰だ」
先程アオキが部屋を訪れた時と同じ口調で楼主が返答する。
「紅鳶 をお連れしました」
「通せ」
男衆の低い声に負けないくらい腹に響く声で楼主が促す。
紅鳶………聞いた事のない名前だ。
しずい邸にはそんな名前の男娼はいない。
誰だろうと考えあぐねていると、余所事を考えるなとでもいうように股間を思いきり掴まれた。
「………うぅっ!!」
部屋に誰かが訪ねてきたというのにも関わらず、楼主は全く手戯を止めるつもりはないらしい。
「待って……待ってください」
アオキは慌てて楼主の身体を退かそうとするが、屈強な肉体はびくともしない。
そうこうしているうちに、縺れ合う二人の横に男が歩み寄ってきた。
見上げると、襦袢姿の長髪の男が気怠げな眼差しでこちらを見下ろしていた。
ステンドグラスの鮮やかな光の下に立つ男は、アオキが今まで見てきたどんな男よりも顔立ちが整っていた。
精悍、シャープ、凛とした、そのどれもが当てはまっている。
襦袢姿というだらしのない格好を除けば、だが。
しかし、その気怠げな態度やだらしなさも美徳とするような完璧な容姿の上に、人を惹きつける魅力のようなものをアオキは感じていた。
見たものの心まで奪うような妖艶で艶があって…例えるならしずい邸の人気男娼アザミのように。
紅鳶は肩まである柔らかな髪を掻き上げると溜め息をついた。
「で、わざわざ俺を呼び出しといてヤってるとこ見せつけたかっただけかよ」
紅鳶は眉間に皺を寄せると、楼主を一瞥した。
その視線は自ずとアオキにも突き刺さる。
「ただの身体検査だ、気にするな」
「身体検査………ねぇ」
紅鳶は楼主に組伏せられているアオキをじっと見つめてきた。
鋭い眼差しは楼主の眼差しと酷似しているが、瞳の色のせいか楼主のものほど厳しくはない。
寧ろいつまでも見ていたくなる不思議な柔らかさを含んでいて、アオキはいつの間にかじっと見つめ返していた。
「なんだ、もう魅入られちまったのか?さすがゆうずい邸の一番手だな」
楼主の言葉にアオキはハッとして視線を逸らした。
やはり男はゆうずい邸の男娼だった。
しかも一番手を張る男。
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