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アオキ7

ゆうずい邸の男娼とは本来、接触してはいけない決まりだ。 ゆうずい邸としずい邸は同じ敷地に建物が隣接してるにも関わらず、その間には強固なセキュリティーが張られていて容易に行来できないようになっている。 現にアオキは今の今までゆうずい邸の男娼を一度も見たことがなかったし、その存在さえも危ういと思っていた。 それほどしずい邸とゆうずい邸の男娼の間は高い壁で隔てられているはずなのに。 それなのに楼主自ら決まりを破るなんて一体どういうつもりなんだ。 楼主の思惑が掴めず、アオキは再び困惑した。 しかし、楼主は紅鳶(べにとび)の見ている前でアオキの着物の帯をしゅるりと解いてしまう。 アオキはハッと我に返った。 「いや………やめっ…」 何とか抵抗するもののやはり力では到底敵わない。 無慈悲にも襦袢の紐も解かれると、楼主と初対面の男の前に裸体が晒されてしまった。 「………っ!!」 客ならまだしも、相手は今まで会ったこともないゆうずい邸の男娼。 そんな相手の前に肉体を晒されて、途端に顔が発火する。 身を捩って逃げうつアオキの身体をうつぶせにして引き戻しながら、楼主が鼻を鳴らした。 「やればできるじゃねぇか」 肩に引っ掛かっただけの襦袢を捲られて、白く丸みを帯びた尻を露にされる。 「…いやっ!」 「お前、なかなかいい尻を持ってるな」 張りのある双丘を両手で鷲づかみにされると突然揉みしだかれた。 あまりにも激しく揉まれるので、身体が勝手に揺れてしまう。 「…や、や、いや、ですっ……やめて」 アオキは遂に本気で啜り泣きはじめた。 元来、身体を拓いて相手を悦ばせる事がしずい邸の男娼の仕事で、きっと他の男娼ならこうして見られている事など構わずに、この場を愉しむのかもしれない。 しかし、アオキにはそれができない。 それは初めて男を知らされた日から変わらずだ。 畏怖。 それは快感を得ようとすると、いつも身体の奥から這い上がってくる。 それを少しでも感じるとアオキの身体は頑なに快楽を拒絶しようとするのだ。 その正体や、なぜそうなるのか理由はわからない。 例えば昔、見ず知らずの誰かに強姦されたりだとか心に傷がつくようなトラウマなどがあればわかるのだが、アオキにはそんな記憶は全くない。 しかし、感じるたびに身体の堰にヒビが入ってしまい、それが崩れてしまったら自分で自分がどうなってしまうのかわからないという恐怖が常にあって、それはどんな客に対しても同じだった。 仕事だと割り切って肉体を差し出す事もできない。 かといって、セックスを心の底から愉しむ事もできない。 つまりアオキは男娼に向いてないのだ。 それなのに、わざわざゆうずい邸で一番手を張る男娼の前でこんな痴態を晒されるなんて惨め以外何ものでもない。 赤い絨毯の上に雫がぽとりと落ちる。 アオキは唇を噛みしめると楼主の理不尽な仕打ちに身を震わせた。

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