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アオキ9
アオキが身を売る羽目になった理由は、どこにでもあるありふれたものだった。
アオキはそもそも施設育ちの子どもだ。
生まれて間もなく、施設の入り口に置き去りにされていたらしい。
本当の家族の事など一切わからないまま迎えた14歳の年、養父母の下に引き取られた。
里親の両親の元では大事にされていたと思う。
既に難しい年頃だったにも関わらず、養父母の優しさのおかげでひねくれる事もなく16歳を迎えたある日の事だった。
養父母が経営していた会社が不渡りを出して倒産。
そこへ債権者の代理人だという男が現れてアオキはここへ連れて来られた。
何が何だかわからないまま部屋に押し込められ、般若の面を被った黒装束の人間に身ぐるみを剥かれ、身体中をくまなく調べられた。
それが終わると女物の着物を着せられて、楼主の元へ突きだされた。
それまで名乗っていた名前を奪われ、代わりにアオキという名を与えられ、今日からここで客に買われる身になったのだと告げられた時アオキはようやくわかったのだ。
自分は養父母に売られたのだと。
それからしばらくの間アオキはぼんやりとした感情の中にいた。
生みの親に捨てられたまでは納得できていた。
実の親にもそれなりの理由があったのだろうと理解していたし、施設には同じ境遇の子どもたちが沢山いて自分だけが特別哀れではなかったからだ。
養父母に引き取られた時は、ようやく自分にも人並みに家族ができたと思って嬉しかったし幸せだった。
しかし、その養父母にまで捨てられたのかと思うとさすがのアオキもショックだった。
哀しい、という感情はなかった。
そこにあったのは、結局自分などその程度の価値だったのだという酷い自己嫌悪感。
きっと、養父母にとって血の繋りのないアオキは身を売り飛ばせる存在、それほどの物だったのだ。
それからアオキの感情はどこか醒めたものになり、それと比例するように肉体も開かなくなった。
落ちこぼれだと言われ、出来損ないだと罵られても努力なんてする気にもならなかったのはそうやって足掻いても決して報われないとどこかで思ってしまっているからだろう。
いくら努力をしても流れには逆らえない。
たとえ流れに逆らったところで、身も心も傷つくだけで足掻いた分は無駄にしかならないのだから。
だから、こうして楼主に「お前は商品だ」と告げられても本来のアオキなら聞き流してしまえる自信があった。
たとえあのまま楼主に陵辱されたとしても、その場にアオキ一人だったら耐えることだってできていたはずだ。
しかし紅鳶 の腕の中に囲われているといつものように心が硬くなっていかない。
それどころか、紅鳶 の前で物のように扱われた言葉に対して傷ついてしまっている。
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