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アオキ10

「相変わらずあんたは人を人とも思ってないんだな」 吐き捨てるような紅鳶(べにとび)の言葉に楼主はスッと目を細めた。 「ここでは男娼(おまえら)は商品だ。手前の身の代金がある限りそれは覆らねぇ。ただし…」 煙管(きせる)から煙をふかした楼主は、アオキを見据えた。 こちらの真意の何もかも見抜いているかのような鋭い眼光と視線が絡み、アオキはビクリと身体を震わせる。 「何の覚悟もねぇでずるずるやってる奴は商品にもならねぇって事を忘れるな」 楼主の言葉はアオキに充分突き刺さる言葉だった。 わかっている。 ここの娼妓は全員、最初から淫乱だったわけではない。 そうならざるを得ないから自分で自分を変えていったのだ。 しかし自分はどうだ。 捨てられた事に対して変にひねくれ、娼妓である自分自身をいつも心のどこかで哀れんでいた。 腹を括って淫乱になりきる事もできず、かといってどうにかしようと足掻く事もしない、商品以下だと言われても何の反論の余地もない。 「アオキ」 切りつけるような楼主の言葉に何一つ答える事のできないアオキの耳に、まるで判決を言い渡す時のように煙管の雁首が灰皿を打つ。 「最後のチャンスをくれてやる。今日から暫くその紅鳶がてめぇの再教育の指導者だ。みっともねぇ意地なんかクソの役にもたたねぇってことを今日からそいつにしっかりと教えてもらえ」 アオキはハッとして紅鳶を見上げた。 彼も同じように瞠目しているところを見ると、紅鳶自身も今その事を初めて耳にしたらしい。 「紅鳶、お前はそいつがいっぱしに使えるようにみっちりと性技を叩き込んでやれ。商品として売れるようになったと最終的に翁や俺が判断したら、お前の年季の減額も考えてやってもいい」 紅鳶は複雑な表情を浮かべると、アオキから目を逸らした。 「蜂巣の一室を使え。暫くお前らは座敷にも上がらなくていい。ただし、蜂巣から出るのは禁止だ。必要なものがあれば外にいる翁を呼べ」 座敷牢行きだと告げられていたアオキは、ぽんぽんと飛んでくる楼主の命令に思考が追い付いていかない。 「言っておくが外には翁が常時控えてる。お前らの言動や行動は筒抜けだということを忘れるなよ」 最後に楼主は念を押すと、唖然とするアオキと紅鳶を部屋から追い出したのだった。

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