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アオキ11

アオキが連れてこられた蜂巣(はちす)は、ゆうずい邸側の一番奥にある広めの蜂巣だった。 まだ客も男娼もいない開店前の明るいうちに男衆たちによってアオキの身の回りの荷物が運びこまれ、アオキ自身と共に蜂巣に押し込められると外側から厳重に鍵をかけられた。 同じように紅鳶の荷物も運びこまれ、彼もまたアオキと同じように蜂巣に閉じ込められた。 蜂巣の内装は最低限の生活ができるようになっていた。 簡易的なキッチンや荷物が置けるクローゼットなどもあったが、やはり部屋の殆どは寝室になっていて他の蜂巣とは大差ないように思えた。 ただ、丸窓から見える外の景色は今まで見たことのない風景だった。 ここはしずい邸ではない事がアオキを少しだけ不安にさせたが、それよりもゆうずい邸一の男娼と蜂巣に二人きりでいるという状況に未だ思考がついていかない。 アオキはベッドの下の床に正座をすると、所在なげに視線を彷徨わせていた。 ここに押し込められたのはいいものの、紅鳶(べにとび)と何を話していいのかわからない。 楼主の部屋にいるときはわからなかったが、こうして二人きりでいると彼は近寄り難いオーラを放っていた。 圧倒的な風格を誇る容姿と雰囲気。 背も高く、恐ろしく端整な顔立ちは今までアオキが見てきた男の中でも群を抜いて一番だ。 しかし、黙っていると少なからず恐怖を感じてしまう。 これがゆうずい邸で一番手を張る男娼の風格というものなのだろうか。 チラリと紅鳶を盗み見ると、彼は壁に凭れ腕を組んで難しい表情のままこちらを見ていた。 驚いたアオキは慌てて視線を逸らすと、小さくため息をついた。 ゆうずい邸一の稼ぎ頭である男娼をこんな所に押し留めてもいいものなのだろうか。 紅鳶を指名して来店する客は山のようにいるだろうし、そもそも男娼である自分達が一日でも働かなければ年季を返す日も先伸ばしになってしまう。 落ちこぼれの自分はともかく、紅鳶にそんな事をさせてしまった事が申し訳ない。 「アオキ」 「…は、はいっ」 突然名前を呼ばれて、アオキは思わず立ち上がった。 あからさまに動揺してしまった事が恥ずかしくて顔がかあっと熱くなっていく。 紅鳶はゆっくり近づいてくると、アオキの前で止まった。 襦袢の胸元から覗く逞しい胸板をまともに捉えてしまい、楼主の部屋で彼の腕に抱かれた事をいや応なしに思い出してしまう。 「お前、セックスが嫌いなのか?」 単刀直入に問われて、アオキは戸惑いながら俯いた。 「嫌いというか…その…みんなみたいに集中できないっていうか…」 アオキの返答に紅鳶はふん、と鼻を鳴らした。 「………楼主にされてたのを見る感じでは不感症ってわけでもなさそうだな」 紅鳶の言葉で先ほど彼の前で痴態を晒してしまったことを思い出す。 「あの……っ、紅鳶様。やっぱり俺、もう一度楼主(オーナー)に考え直してもらえるよう頼んでみます。貴方のような方が俺なんかにかまけて身代崩す事ないんですから」 しかし紅鳶はアオキの言葉にはなんの反応もせず、ぐっと距離を詰めてきた。 端整な顔が近づいてくるとますますそのオーラに圧倒されてしまう。 ドキドキしながら石のように固まっていると、顔を覗きこまれた。 「さっきも思ったが……お前近くで見ても綺麗な顔立ちしてるんだな。それに、花みたいな香りがする」 スン、と首筋を嗅がれ、そこにあたる吐息に心臓が跳ね上がる。 アオキは首筋を押さえると慌てて紅鳶から離れようとした。 顔は真っ赤になり、火をふいているかのように熱い。

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